いわくつきの作品『虐殺器官』の“意地”とは?中村悠一&櫻井孝宏インタビュー!
『虐殺器官』(公開中)は、今年公開される映画の中でも屈指の“いわくつき”作品だ。SF作家・伊藤計劃の遺作を劇場アニメ化する“Project Itoh”の第2弾として企画されるも、制作体制の見直しによって公開延期、紆余曲折を経てようやく完成までこぎつけた。そんな作品に参加した声優の中村悠一、櫻井孝宏にインタビューすると、苦難があったからこその制作サイドの“意地”が伝わってきた。
企画が発表されたのは2014年の3月。「虐殺器官」を原作にしているため、社会性の高いシリアスで、ハードな作品になることは明白だった。ストーリーも原作に沿って、世界中の紛争や大量虐殺に関わっているという“虐殺の王”ことジョン・ポールと、その所在を探る米軍特殊部隊のクラヴィス・シェパードの対峙が描かれるはずだ、と。
このある種“難解”な作品について、クラヴィス役のオーディションを受けた中村の不安は「どう演じるか」ということにあった。「メッセージ性が強い作品なので、役者としては楽しみな半面、求められるハードルも高そうだと思いました。何を望まれているのかわからなかったので、どういう形で自分の解釈を提示するのか…。難しい作品だなと感じた記憶があります」。
ジョンを演じることになった櫻井も「原作を読ませていただいた時に、すごくチープな表現ですけど、難しい作品だと思いました」と振り返る。「でも、この文字ベースの作品をアニメーションで描くと、見た時にどういう気持ちになるのか、それが気になったんです。アフレコをしている時も、どういう質感の作品になるのか想像していましたね。けっこうエグい映像になるだろうなって(笑)」。
2人が参加したアフレコは2015年の1月に無事終了。同年の11月13日には公開を迎えるはずだった。
しかし、10月に入って「虐殺器官」製作委員会が公開延期を発表した。制作を担当していたスタジオmanglobeの経営破綻が原因だ。一時は制作中止の危機に陥ったが、新たに設立されたジェノスタジオに引き継がれ、再始動することになった。
この件を中村に聞いてみると「みなさんご存知の通り、会社が倒産したんですよ(笑)」と笑うが、このネガティブに見える状況にも良い作用があったのでは…と語る。「中止になりました、というタイトルは他にもいくつかあるんですけど、中止した計画が再び形になることはこの業界的には珍しいんです。どうしても形にするんだという制作サイドの想い、熱量を強く感じましたし、目の当たりにしました。それからは、声の追加・録り直しがあれば協力します、という気持ちでしたね」。
「制作中止は青天の霹靂だった」という櫻井もスタッフの意地を肌で感じていた。「頓挫しかけたものを軌道に乗せるのは大変なことだと思います。しかも躊躇があっては作れない作品だと思うので、完成させるのは本当に大変なこと。とんでもない経験をしている分、制作サイドはより作品に集中できたのではないかと思いますし、実際に完成した映像を見て、よりソリッドで鮮烈な映画になったと思います。何か恨みつらみが無意識に出ている感じは否定できないですけどね(笑)」。
苦難を乗り越えて『虐殺器官』は再び軌道に乗り、いよいよ公開という形で世に送られることになる。中村は「感慨深いものがあります」、櫻井は「本当に喜ばしいこと」と、作品の関わった者の一人として胸をなでおろしていた。それは単に形になったからではなく、2人の期待値を上回る映像だったからかもしれない。製作の舞台裏がひとつの物語になっている『虐殺器官』、最終的にどんな作品に仕上がったのか…という物語の結末を、劇場で見届けてほしい。【取材・文/トライワークス】