坂本龍一、独白5000字。コロナ禍のNYで語った、“いま”伝えたいメッセージ
「音楽は人間が作ったもの。人間が頭ででっちあげたもの」
本作の劇中には、シンセサイザーを使った演奏のメリットを語る若き日の坂本の姿があった。それと対照的に、東日本大震災の大津波で浸水し、調律が狂ったグランドピアノを弾いた坂本が“自然が調律した音”と解釈し、愛でるシーンが印象的だ。
「ちょうどYMOを始めたころは新しいテクノロジーがどんどん出てきていて、音楽用のコンピュータも出てきたばかりでした。僕たちは新しいおもちゃを手にした子どものようにはしゃいでいたので、テクノロジーに対して非常に楽観的かつポジティブなことを語っていますが、いま思えば単純な捉え方でした。それから40年経ちテクノロジーは発達したけれど、いまは人間ができることを見直す、あるいは自然を見直したいと思っています。
映画にもあるように、3.11の災害を受け、より人間と自然を対比的に考えざるを得なくなりました。音楽は人間が作ったもので、都市やお金、国などと同じように、人間が勝手に頭ででっちあげたものと同じ側に属していますね。ピアノにしても、自然のなかにポンとピアノがあるわけではなく、自然のものである木や鉄などを使い、そこに無理やり大きな力を加えて、ああいう形にしたわけです。つまり、非常に人工的なもので音楽を奏でている。それは巨大な都市を作ったり、防波堤を作ったりするような行為と同じではないかと、疑問を抱くようになりました。以前から環境問題や温暖化の問題は考えていたので、より一層、その想いが強くなった気がします。僕が環境問題に感心をもったのは1990年代初頭だから、気づけば30年近いですね。2001年にアフリカに通ったり、2008年には北極圏に行ったりしたのも、そういう理由からです」
「仕事を受けるかどうかは、文字ではなく映像が決め手になる」
坂本は近年、以前にも増して精力的に映画音楽を手掛けている。賞レースをにぎわせた、レオナルド・ディカプリオ主演の『レヴェナント: 蘇えりし者』(15)や、韓国の史劇大作『天命の城』(18)、豊川悦司、妻夫木聡共演の『パラダイス・ネクスト』(19)、公開待機中のアニメ映画『さよなら、ティラノ』など、作品の幅は非常に広い。数多くのオファーから作品を選ぶ決め手は、どんなものだろうか。
「映画音楽に関しては、声をかけてもらった仕事についてやるかどうかの選択権はあっても、こちらから売り込むことは一切していないですし、作曲家が仕事を決められるケースはほぼないので、実際にそんなことをしても有効ではないと思っています。
その仕事をやるかどうかを決める際、映画のテーマや監督の実力はもちろん判断基準にはなります。でも、僕が若い時に、ある監督が立派な功績を残しているという外的な情報だけで判断し、よく検討せずに返事をしてしまい失敗をしました。なのでそれ以来、文字の情報は信用していません。映画の場合、映像は嘘をつかないので、有名無名にかかわらず、少しでもいいから映像を見せてもらい、やるかどうかを決めています。過去に仕事をしていて、その監督を信頼している場合は別ですが、知らない方の場合はまず映像から入ります」
タイトル:『Ryuichi Sakamoto: CODA』
本編分数:102分
配信期間:2020年5月22日(金)15:00 ~ 5月28日(木)23:59
配信場所:「KADOKAWA映画」 公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCHjj-qlJhYWDacFwnaewV6Q