観てる間に、少女になったりおじさんに戻ったり…作家・松久淳が『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』をレビュー!

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観てる間に、少女になったりおじさんに戻ったり…作家・松久淳が『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』をレビュー!

全国11チェーンの劇場で配布されるインシアターマガジン「月刊シネコンウォーカー」創刊時より続く、作家・松久淳の大人気連載「地球は男で回ってる when a man loves a man」。今回、「(やっぱり)地球は女で回ってる」として実現したスピンオフ版を特別WEB掲載!作品は、『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ監督がシアーシャ・ローナン主演でルイーザ・メイ・オルコットの小説「若草物語」を新たに映画化した『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(6月12日公開)を取り上げます。

グレタ・ガーウィグ監督×主演シアーシャ・ローナンによる『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
グレタ・ガーウィグ監督×主演シアーシャ・ローナンによる『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』イラスト/猪又環

観てる間に、少女になったりおじさんに戻ったり この監督・主演コンビは、私の感情を大忙しにしてくれたのでした

『スウィート17モンスター』『マイ・プレシャス・リスト』『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』『さよなら、退屈なレオニー』……。
この数年、“10代女子の痛い青春映画”が密かな(?)ブームのような気がするのですが、その中で代表作と言えばやはり、『レディ・バード』になるでしょうか。
自分をレディ・バードと呼ばせる段階で、自意識過剰が悪い方向に出てるヒロイン。
当然、ママや保守的な先生たちとは対立、親友を邪険にし、つまらない見栄を張って、心ない言葉で人を傷つけ、でもそんな自分にもいつも苛立っている。
男ですけど私も自分の10代を思い出して恥ずかしくなってしまったり、公開時、私の息子がレディ・バードと同じ高校3年生だったので、別のシーンではパパの気持ちで心配になったり、ママの気持ちで腹が立ってしまったり、最終的には鼻がずるずるするくらい泣いてしまったりと、個人的に感情が大忙しの映画でした。

【写真を見る】主演のシアーシャら女優陣と、グレタ・ガーウィグ監督(左)
【写真を見る】主演のシアーシャら女優陣と、グレタ・ガーウィグ監督(左)

さて、そんな『レディ・バード』の監督・主演コンビ再びの新作が、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』。
もういったい何度映画化されただろうという、19世紀南北戦争時の四姉妹とそのまわりの人々を描いた古典。
94年版のウィノナ・ライダーはとにかくかわいかった。
ちなみに私の初若草物語は、81年の連続アニメ「若草の四姉妹」でした。古い話ですいません。古いついでに、当時の男子は「わかくさのししまい」と変読してゲラゲラ笑うという、程度の低さを披露したものでした。男子って、ほんとバカよね。
さてそんな若草物語、特に「さんざん観てきた古典」を改めて観てもなあという気持ちが少しあったのも正直なところ。
でも、それは杞憂でした。
そして『レディ・バード』のように“痛い少女もの”として描くのかな、それだと新しいかもとも予想していたのですが、意外にも(というと失礼ですが)まっとうな作りで、いい意味で裏切られました。

『レディ・バード』は淡々と進むように見えて、実は埋め込まれたエピソードは結構な量がありました。しかしそれをテンポよく、でもダイジェストのように見えない仕立て方に唸ったのですが、今回の『若草物語』もその手腕は同じくでした。
観てる時は気にならないのに、あとから思い出すと、4人それぞれ、いくつの話が折り重なってたのだろうという巧みさ。うまいなあ。
昨今妙に大活躍なのも納得のローラ・ダーン、そうそうこの感じというクリス・クーパー、そしてまあまあな無駄遣いの(褒めてます)メリル・ストリープと配役もいい。あ、ティモシー・シャラメも出てます。
そしてやっぱり主演のシアーシャ・ローナン。『ラブリーボーン』のあの少女が、20代になってから『ブルックリン』、『レディ・バード』、本作と、2年に一度ホームランをかっ飛ばしてる打率のすごさ。万人受けする美人というわけではないのに、やはり彼女の顔力には見惚れてしまいます。
そんなシアーシャ・ローナンを中心に、エマ・ワトソンたち姉妹たちの姿が、いつまでも見てられる楽しさにあふれているのが、本作の私的なうっとりポイント。

様々な表情で魅せるシアーシャの演技は必見!
様々な表情で魅せるシアーシャの演技は必見!

おっさんがこんなこと書くと気持ち悪いのは百も承知なんですが、少女たちが無邪気に戯れてる姿というのは、映画的至福のひとつなんです。そのうちに、自分の容姿・性別・年齢を忘れて、四姉妹と屋根裏部屋できゃっきゃしてる自分を夢想して、乙女心が疼いてしまったりしていたのでした。
あ、数少ない女性ファンの方がいま、すーっと引いていってる気が。
そして女性には普通のことかもしれない、しかし男が目の当たりにするとぞっとする、女同士の残酷さ。次女ジョーの小説を、意地悪されたと思った末っ子エイミーがあっさり……するシーンなんて、たぶん女性以上に男はぞっとすると思います。

そして、これも男は理解が追いつかない、そのわりにあっさり仲良くなってしまうくだり。
こういったシーンをさらっと描いてたりするからうまいよなあと、おじさん驚いたり感心したり。
観てる間に、少女になったりおじさんに戻ったりしてた私ですが、小説家としては、ヒロインの本が製本されていくシーンが、紙の音やその肌触りがすごくフェティッシュで、やがて一冊の本になりそれをヒロインが手にした時は、思わずシンクロして泣きそうになりました。
結果、この監督・主演コンビはまた、私の感情を大忙しにしてくれたのでした。また観よう。

文/松久淳

■松久淳プロフィール
新刊「走る奴なんて馬鹿だと思ってた」(山と渓谷社)が発売中。旧作「天国の本屋」が、13年ぶりに再販決定。近刊に「きっと嫌われてしまうのに」(双葉社)、「もういっかい彼女」(小学館)などがある。

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