Black Lives Matterとコロナ禍がアメリカにもたらしているものとは?声をあげるセレブリティや企業の動向まとめ
多く報道されているとおり、5月25日にミネソタ州ミネアポリス近郊で、アフリカ系アメリカ人男性ジョージ・フロイトが警察官に拘束されたのちに死亡した事件は、多くのことをアメリカ及び世界中に問いかけている。
事件が報道された翌日から、「Black Lives Matter(BLM、黒人の威厳と尊厳を守る運動)」のスローガンを掲げた抗議運動が全米に広がり、運動は現在も進行形だ。運動が始まった当初のBLMを掲げ人種による差別の撲滅を問うものから、警察官による見境のない暴力行為を止めるために警察組織の予算削減を訴える運動も派生している。
ニューヨーク、ロサンゼルスなどの大都市では抗議運動と同時多発的に略奪や破壊行動も起きていて、夜間外出禁止令(Curfew、直訳では門限)が発出された。5月31日にロサンゼルス市及び近郊の市で出された外出禁止令は夜10時から朝6時までだったが、その後も夜間の略奪や破壊行為がおさまらず、6月2日にはロサンゼルス全域で夕方6時、被害の大きいビバリーヒルズやサンタモニカは午後1時から外出禁止令が出された。その後、ロサンゼルス市は州軍派遣依頼を出し警備に当たる事態になった。6月9日現在、外出禁止令は解除されている。
新型コロナウイルスの感染も収束していないのにこれほどまでに運動が大きくなっているのは、ミレニアル(2000年代生まれ)より下の世代がSNSを駆使し発信、啓発を行なっていることも理由に挙げられる。そして、多くのミュージシャンや俳優たちがSNSを使って声を上げ、デモ行進に参加している。
ロサンゼルスの抗議運動にはアリアナ・グランデやビリー・アイリッシュ、ハリー・スタイルズが参加、ほかにもベン・アフレックとアナ・デ・アルマスやジェイミー・フォックスがデモに参加している写真が報道されている。
ロンドンで行われたデモには「スター・ウォーズ」のフィン役で知られるジョン・ボイエガが思いの丈をぶつけるスピーチを行った。スピーチのなかで、黒人に生まれたことで屈辱を受けた人生を振り返り、協働し世界を変えていこうと訴える。「キャリアがどうなってもかまわない」と涙ながらに叫んだボイエガの姿を「スター・ウォーズ」の公式Twitterがシェアし、「あなたはヒーローです」と結んだ。
これを受けたマーク・ハミルも、「君を誇りに思うよ、ジョン。父より」とツイートしている。
一方、音楽業界では6月2日の火曜日を「Blackout Tuesday(停電の火曜日)」とし、通常業務を一旦傍らに置き、BLMや今件にまつわる状況を考え直す時間にしようという運動が行われた。SNSでシェアされた「#BlackoutTuesday」のハッシュタグに賛同した企業やサービスがInstagramで黒い写真をシェアしたり、SpotifyやAppleミュージックといったサブスクリプション・サービスでは特別なプレイリストが流された。そのため、6月2日及びこの週に予定されていたイベント(コロナ禍の最中なのでほとんどはオンラインイベントだが)は中止もしくは延期され、この問題に想いを馳せる時間を持とうと訴えかけた。多くの映画スタジオやエンターテイメント企業が、BLMに賛同する声明を出している。
6月7日には、オバマ元大統領夫妻が発起人となり、今年卒業を迎える学生たちに向けたオンライン卒業式イベント「Dear Class of 2020」が行われた。4時間半にも及ぶ長丁場イベントには、オバマ夫妻をはじめレディ・ガガ、ビヨンセ、アリシア・キーズ、ビリー・アイリッシュ、BTS、テイラー・スウィフト、ケイティ・ペリーらの祝辞やライブが流された。
もともとは新型コロナウイルスによって卒業式を迎えることができない卒業生たちに向けたイベントだったが、スピーチ内容は現在の混沌を意識せざるを得ないものになっていた。ミシェル・オバマのスピーチでは、「怖かったり、混乱したり、怒ったり、圧倒されたり、自分を安定させるための命綱を探しているように感じているのなら、あなたは一人ではありません。私たちはみんなそう感じていると思います」と述べ、そしてアメリカに蔓延る構造的な障壁について語った。その上で、4つの人生の教訓を伝えた。
教訓その1は、「人生は常に不確実なものである」、教訓その2「人を正しく扱うことは、決して失敗しない」、教訓その3「自分の声を世界に発信しよう」、そして教訓その4「怒りは強力な力であり、役に立つ力になることもある。しかし、単独で放置しておくと腐敗し破壊し、内外に混乱をもたらす。でも、怒りがひとつのことに集中し、何かに導かれた時、それは歴史を変えるものになるでしょう」。今年高校・大学を卒業する世代は、デモに参加している世代と重なる。このオンライン・イベントは彼らの世代を鼓舞したことだろう。
この数か月のコロナ禍と公民権運動以来アメリカを揺るがし続けてきた運動は、多くの人に気づきと反省、そして課題を与えた。ミュージシャンや俳優も企業も、そして私たちも、日々起きていることからなにを感じとりどう行動していくのかが、問われる時代が訪れる。
文/平井 伊都子