ついに公開された『ランボー ラスト・ブラッド』はランボーの在り方を問う必見作!
シルベスター・スタローンが当たり役を得て、アクション映画史に大きな足跡を残した「ランボー」シリーズ。元グリーンベレー所属の最強のゲリラ戦士ジョン・ランボーは、1982年にスクリーンに登場して以来、長きにわたって観客をエキサイトさせ続けた。そんな男が、いよいよ帰ってくる。『ランボー ラスト・ブラッド』(公開中)は、11年ぶり・5作目となるシリーズ最新作。そこには、”ランボーとは何者なのか?”という究極のテーマが刻みこまれている。
第1作『ランボー』(82)で主人公ランボーはベトナム帰還兵として姿を現わした。アメリカのために戦い、心に深い傷を負いながらも、祖国はそれに報いようとはしなかった。いわば、祖国に見捨てられたアウトサイダー。それでもランボーは第2作『ランボー 怒りの脱出』(85)で捕虜救出の任務を負ってベトナムに舞い戻り、3作目の『ランボー3 怒りのアフガン』(88)では動乱のアフガニスタンに飛び、祖国のために戦う。この2、3作目で彼は無敵のアクション・ヒーローのイメージを確立した。
しかし、約20年ぶりの続編となった第4作『ランボー 最後の戦場』(08)では、ランボーはもはや国家の英雄ではない。タイで隠遁生活を送る彼はミャンマーに渡り、非道な軍事政権に立ち向かう。アメリカという“国家”のためではなく、初めて“人”のために戦おうとするのだ。当時のミャンマーでは、実際に軍事政権が残虐行為を繰り返していたが、スタローンは、その事実を知らしめることに本作の製作の意義を見出したという。
そして注目の第5作『ランボー ラスト・ブラッド』。この今作も、世界レベルでは比較的軽視されている、メキシコの人身売買という社会問題を背景にしており、スタローンは前作の直後から、この問題について映画を撮ろうとしていることを語っていた。ドラマの始まりは、前作のラストで映しだされたランボーの故郷の農場。老境の彼は、ここに生活の基盤を築き、旧知の女性やその孫娘ガブリエラとともに、家族のように暮らしていた。だが、ガブリエラがメキシコの人身売買組織に拉致されたことで平和な日々は崩れ去る。かくしてランボーは、愛する“家族”を救うために単身メキシコに乗り込み、過酷な戦いに身を投じる。
“人”のために戦うのは前作と同様。しかも救うべき対象は家族も同然の少女だ。そもそも、これまでのシリーズではランボーは天涯孤独で、家族が登場したことは一度もなかった。つまり、今回のランボーは誰よりも愛する者のために戦うわけで、戦闘のモチベーションが上がらないわけがない。さらに、本作がシリーズ中で特異である点は、ランボーが初めて“ホーム”というべき故郷で戦うということ。1作目こそ舞台はアメリカだったが、そこでのランボーはよそ者だったし、2~4作目の戦場は外国。すなわち、これまでランボーはつねに“アウェー”で戦ってきたのだが、今回はメキシコで敵を挑発し、ホームに誘い入れるという珍しいパターンなのだ。
ホームで戦う以上、地の利は活かす。張り巡らされた地下道にトラップを仕組んでの攻防。それはまさに、ランボーがもっとも得意とするゲリラ戦。数十人の武装した敵にたった一人で立ち向かい、ひとりずつ確実に仕留めていく。これがアクションのスリリングな見せ場として機能していることは言うまでもないだろう。
そしてホームでの戦闘は、ランボーが自分自身を見つめなおすドラマにもつながってくる。何よりも大切だったものが失われたとき、人生はどこに向かうのか? そもそも自分は何者で、どこに向かおうとしているのか? 老いたランボーが自身に問いかける、そんな心の軌跡をたどった物語は、見る者の魂を震わせずにおかない。ランボーの在り方を問う鮮烈なラストを、見逃すべからず!
文/有馬学