イザベル・ユペールが歩く世界遺産の町…静かな感動に満ちた『ポルトガル、夏の終わり』

コラム

イザベル・ユペールが歩く世界遺産の町…静かな感動に満ちた『ポルトガル、夏の終わり』

フランスの名優イザベル・ユペールが自らの死期を悟った女優を演じる『ポルトガル、夏の終わり』(公開中)。ポルトガルの世界遺産の町シントラで撮影され、美しい輝きを放ち続けるユペールの存在感も合わさり、全編にわたって幻想的な世界が広がっている。非日常空間を創出する本作の魅力を紹介したい。

物語の舞台は世界遺産の町、シントラ
物語の舞台は世界遺産の町、シントラ[c]2018 SBS PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA [c] 2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions

ポルトガルの避暑地、シントラ。深い森と美しい海に囲まれ、歴史ある城跡が点在する神秘的な町だ。ヨーロッパを代表する女優のフランキーは、自身の余命があとわずかだと知り、この地に家族や友人たちを呼び寄せる。夫に元夫、息子に義理の娘の家族、最も信頼している年下の友人とその恋人。何気ない夏の休暇だと思っていた彼らだが、この集まりはフランキーが愛する者たちの人生を少しだけ演出しようと仕組んだものだった。

フランキーは愛する人たちの人生を少しだけ演出しようとする
フランキーは愛する人たちの人生を少しだけ演出しようとする[c]2018 SBS PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA [c] 2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions

物語のキーマンであるフランキーを演じるのは、1970年代からジャン=リュック・ゴダール、グロード・シャブロル、ヌーヴェル・ヴァーグらと共にフランス映画界を牽引してきたイザベル・ユペール。『エル ELLE』(16)ではセザール賞主演女優賞を受賞したほか、アカデミー賞主演女優賞への初ノミネートも果たした。
そんな唯一無二の演技力と変わらぬ美しさで世界を魅了するユペールと抜群の相性を見せるのが、物語の舞台シントラだ。イギリスの詩人バイロン卿が「この世のエデン」と称したこの町に広がるのは、深い森に迷路のような路地、若者が集う“リンゴの浜”、浜と町をつなぐ路面電車、広大な海に沈む夕日などなど。このうえなく壮麗で神秘的な町並みに圧倒されてしまう。

イザベル・ユペール主演作『ポルトガル、夏の終わり』が幻想的
イザベル・ユペール主演作『ポルトガル、夏の終わり』が幻想的[c]2018 SBS PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA [c] 2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions

本作は、メガホンをとったアイラ・サックス監督の『人生は小説よりも奇なり』(14)に惚れ込んだユペールがラブコールを送り、それにサックス監督が応える形で書き上げられた。「僕たちが今回話したことは、イザベル自身の感情をいかにさらけ出すか、ということでした」とサックス監督が語る通り、ユペールの自然体でどこか親密さも感じさせるたたずまいが印象的。ただそこに立っているだけで見惚れてしまうオーラもさすがで、フランキーが美しい景観を背に家族や友人、一人一人と会話し、自分自身とも向き合っていく。ドラマチックな展開も派手な演出もないが、ユペールらキャストたちのかけ合いと、それを盛り立てるシントラの景色によって、静かな感動が押し寄せてくる。

イザベル・ユペールの限りなく自然体の演技が堪能できる
イザベル・ユペールの限りなく自然体の演技が堪能できる[c]2018 SBS PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA [c] 2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions

イザベル・ユペールと世界遺産の町、両者のまさかのケミストリーが心地よい映像体験を与えてくれる『ポルトガル、夏の終わり』。日常の喧騒からも解き放たれ、贅沢な時間を堪能できるはずだ。

文/平尾喜浩(トライワークス)

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