ティモシー・シャラメ、D・ヴィルヌーヴ監督が明かした『DUNE/デューン 砂の惑星』抜てきの理由とは?
アメリカで12月公開予定の映画『DUNE/デューン 砂の惑星』。「映画化不可能」と言われたフランク・ハーバートのSF小説シリーズに、『メッセージ』(16)のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が挑むとあって、早くも映画ファンを中心に大きな注目を集めている。ロサンゼルス時間8月3日には、ヴィルヌーヴ監督や主人公ポールを演じるティモシー・シャラメをはじめとするキャスト陣がオンラインで集い、トレーラー初公開イベントが開催。ヴィルヌーヴ監督が「本作の映画化を夢見た10代の自分自身の期待を裏切りたくなかった」とプレッシャーを語ると共に、いまだその多くがベールに包まれている本作の一端が明らかとなった。
本作の舞台は、人類が知性を持ったテクノロジーの支配から脱却し、宇宙帝国を築いている遠い未来。権力闘争の巻き起こるデューンと呼ばれる惑星アラキスで、青年ポールが壮大な運命に立ち向かう姿を描く。1975年にはアレハンドロ・ホドロフスキー監督によって映画化が企画されるも、撮影を前に頓挫。デヴィッド・リンチ監督による『デューン 砂の惑星』(84)は興行的には失敗したものの、いまやカルト的人気を集めるなど、数々の映画人が挑んできた伝説の作品だ。
「大人になったいまでも、私はシリーズの大ファンです」(ヴィルヌーヴ監督)
今回公開されたのは、「意識が覚醒している」というポールのセリフで始まるトレーラー。夢で未来を見ることができるポールは、ゼンデイヤ演じるチェイニーと結ばれる将来や、「反乱軍が来る」ことを予言。毒針を手にした教母ガイウス・ヘレネ・モヒアム(シャーロット・ランプリング)が、苦痛を与える箱にポールの右手を入れさせるシーンや、アラキスで巻き起こる公家同士の熾烈な争いの様子が、短い映像からも見受けられる。ジャクリーン・ウェスト(『レヴェナント: 蘇えりし者』、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』)が手がける衣装は、普遍的かつ洗練されたデザインだ。
ヴィルヌーヴ監督が原作と出会ったのは、「主人公のポール・アトレイデスと同世代の14、15歳の時」だそう。「本屋でこのシリーズに出会い、数ページを読んだだけで夢中になり、シリーズ全作を読みました。大人になったいまでもシリーズの大ファンです。私は幼いころから映画制作を夢見る少年でしたが、そのころから本作の映画化に多大なる可能性を感じていました」と自身にとっても夢の企画であることを告白。
それだけに、映画化を担うにあたっては「プレッシャーもあった」と続ける。「『ブレードランナー 2049』の際は、リドリー・スコット監督の作り上げた世界観を扱うプレッシャーを感じました。本作の場合は、映画化を夢見た10代の私自身の期待を裏切りたくない、というプレッシャーを感じました。監督として制作に集中しなくてはならないのに、10代の私自身からのプレッシャーがのしかかりました」。
「本当に映画の世界に包まれているように感じた」(ティモシー・シャラメ)
『ブレードランナー 2049』の際も、CGの使用を最小限までに抑え、巧妙に作り上げられたセットで撮影したことで知られるヴィルヌーヴ監督。同じく『デューン』も可能な限り実際のセットと、ハンガリー、そしてヨルダンの本物の砂漠をロケーションに使って撮影したという。
ヴィルヌーヴ監督は「俳優たちも人間ですから、身を置く環境から多大なるインスピレーションを受けます。私は本作の監督を担うにあたり、本物の砂漠で撮影を行うことを条件にしました。題名が『砂丘(デューン)』なのですから、人工の砂場で撮影することには納得できません。本物のロケで撮影したことにより、私自身もインスピレーションをもらうことができました。『デューン』は宇宙の生態系と、惑星に存在する生き物の生命圏(バイオスフィア)も題材にしています。フランク・ハーバートは、小説のなかでこれらの要素を非常に美しく、詩的に描いています。 だからこそ、本作も可能な限り自然に近い環境で撮影をする必要がありました」と充実の表情を浮かべる。
主人公ポールを演じるのは、『君の名前で僕を呼んで』(17)以降話題作への出演が相次ぐティモシー・シャラメ。ポールは“すさまじい超能力を持つ存在”として描かれるが、ヴィルヌーヴ監督は、抜てきの理由をこう語る。
「本作のような超大作を率いる役柄には、才能と技術を持ち合わせる俳優が必要でした。シャラメは、人生を重ねたような魂を持ち、知性が瞳に現れています」と印象を吐露。「映像では実年齢よりも若く見える点も、10代のポールを描く上でふさわしいと感じました。シャラメには、1920年代のサイレント・スターのような類稀なるカリスマ性があり、見る者にロマンスを感じさせてくれます。ポールは宇宙界を率いるリーダーになっていくのですから、そんなカリスマ性が非常に重要だったのです」とこれ以上にない才能と出会えたという。
シャラメは「ポール・アトレイデスは10代の設定で、僕も撮影時は22、23歳でした。僕ら若者世代にとって、現実は自分に対する周囲の見解によって形成される“鏡”だと感じられるんです。そのような部分はポールと共感できました。ポールの場合は、周囲の期待による重みは僕よりずっと大きいでしょうが…」とニッコリ。壮大なロケ地での撮影がかない、「撮影中はヨルダンの土地の神聖さを体感し、本当に映画の世界に包まれているように感じました。現場の写真で膝まで深い砂に埋もりながら僕に指示をするヴィルヌーヴ監督の1枚があるのですが、その写真でも、現場にいた皆が環境を“体感”していたのがわかると思う」と特別な体験となった様子だ。
「いままで俺が体験したアクションとは比べ物にならない」(ジェイソン・モモア)
そのほか、ポールの父親で、アトレイデス家の当主のレト公爵役をオスカー・アイザック、アトレイデス家の后妃のレディ・ジェシカ役をレベッカ・ファーガソン。ポールの恋人チェイニー役をゼンデイヤ、レト公爵から信頼を置かれる公家の副官、ダンカン役をジェイソン・モモア、惑星アラキスの先住民のフレメンの族長、スティルガー役をハビエル・バルデム、アトレイデス公家の副官ガーニイ役をジョシュ・ブローリン、アトレイデス公家と宿敵関係にあるハルコンネン家の当主、ウラディミール・ハルコンネン男爵役をステラン・スカルスガルドが演じるなど、豪華キャストが集結した。
昔からSFファンだったというゼンデイヤは、ヴィルヌーヴ監督やシャラメと撮影を共にし、「まるで異世界にいるような感覚になった」とコメント。『アクアマン』で知られるジェイソンは「本作でこなしたアクションは、いままで俺が体験したアクションとは比べ物にならない。不格好な俺をカッコよく見せてくれて本当に感謝しているよ」とお茶目に笑う。
信頼を寄せるキャストと共に超大作を完成させたヴィルヌーヴ監督。「この映画には大勢の俳優たちが携わっています。撮影中はいつ誰が問題児になり、文句を言い始めるのかと心配しましたが、最後まで誰も文句を言いませんでした」と微笑み、「キャスト達の協力的な意識の高さと、周囲への忍耐力、そして作品への忠誠心は、監督として感動してしまうほどでした」と最大の敬意を表していた。
取材・文/成田 おり枝