その美しさに畏怖の念を抱く…神秘の泉“セノーテ”の絶景たち
メキシコはユカタン半島に北部に点在するセノーテと呼ばれる洞窟内の泉を知っているだろうか。マヤ文明と密接に結びついており、美しいもののどこか異様な雰囲気も漂わせているスポットだ。そんな神秘的な風景に迫っていくドキュメンタリー映画『セノーテ』が公開中だ。
『サタンタンゴ』(94)で知られる映画作家タル・ベーラが後進の育成のために設立した映画学校「film.factory」で3年間学び、ボスニア・ヘルツェゴビナの坑夫たちに密着取材し、暗闇のなかで行われる過酷な労働とその環境を静謐な映像で記録した『鉱 ARAGANE』(15)で注目を集めた小田香監督。彼女が今度はメキシコを訪れ、セノーテからセノーテへと足を運びながら、その景色や土地で暮らす人々の言葉や生活を記録したものが『セノーテ』だ。
元々、隕石によって形成されたとされているセノーテは、衝突跡のうえに石灰岩の層ができ、地下水によってその層が崩れ落ちてできた穴。マヤ文明の時代の人々の主な水源であり、雨乞いのために多くの生贄が捧げられたという。現世と黄泉の国とを繋ぐものと考えられていた、マヤの人々にとっての神聖な場所だ。
映画では、そんなセノーテがいくつも登場。プールのように多くの人々の遊び場になっているものから、洞窟の奥深くにひっそりと存在するものまでその種類は様々だ。そんな空間を水中からのショットを交えながら、静謐な映像で映しだしていく。
薄暗い地下の空間に一筋の陽の光が差し込むことによって生みだされる透き通った青と影のコントラスト…。それらはどこか生と死を連想させ、美しさのなかにも畏れを抱かせるような神々しさすら纏っているのだ。
なかなか足を踏み入れることができない世界に誘ってくれる本作。スクリーンに映しだされる絶景の数々には、誰もがきっと心を揺さぶられることだろう。
文/トライワークス