ヴェネチア金獅子賞の『ノマドランド』、プレミアはドライブイン・シアターで開催。拍手の代わりは車のクラクションで

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ヴェネチア金獅子賞の『ノマドランド』、プレミアはドライブイン・シアターで開催。拍手の代わりは車のクラクションで

コロナ禍でドライブイン・シアターのプレミアが開催
コロナ禍でドライブイン・シアターのプレミアが開催[c] 2020 20th Century Studios. All rights reserved.

9月11日にイタリアのヴェネチア国際映画祭、カナダのトロント国際映画祭、そしてロサンゼルスで行われたテルライド映画祭で、クロエ・ジャオ監督の最新作『ノマドランド』のプレミアが世界3都市で同時開催された。翌12日には第77回ヴェネチア国際映画祭の閉会式が行われ、最高賞である金獅子賞の授賞が発表された。女性監督による作品が同賞を受賞したのはソフィア・コッポラ監督の『SOMEWHERE』(10)以来、非白人女性監督による受賞はインド出身のミーラー・ナーイル監督の『モンスーン・ウェディング』(01)以来の快挙となる。

『ノマドランド』は、経済破綻の後に職や住処を失い、車で各地を旅しながら暮らすノマド(遊牧民)を追ったノンフィクション「ノマド:漂流する高齢労働者たち」(ジェシカ・ブルーダー著/春秋社刊)が原作。実話を元にクロエ・ジャオ監督が脚本を書き、架空のキャラクター、ファーン(フランシス・マクドーマンド)が実際のノマドたちと暮らす様子をフィクションに仕立て上げた。ジャオ監督とマクドーマンドの出会いは2018年のインディペンデント・スピリット賞で、マクドーマンドは『スリー・ビルボード』(17)で同賞主演女優賞を受賞、ジャオ監督は女性監督に贈られる助成金を受け取るために来場していた。マクドーマンドは授賞式のステージ上から「近い将来、一緒に映画を作りたいと思える新しい友人たちに出会えました。何人かにはもうコンタクトを取っています…そうよ、クロエ!」と声をかけている。

『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンドが主演を務めた
『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンドが主演を務めた写真:SPLASH/アフロ

「ロサンゼルスからテルライド映画祭」と名付けられたプレミアは、ロサンゼルス近郊のパサデナ市にあるローズボウル(アメフトなどのスポーツやコンサートが行われるスタジアム)の駐車場に特設されたドライブイン・シアターで行われた。例年8月末にコロラド州テルライドで行われる映画祭は、トロント映画祭の直前に開催されることから北米プレミアが多く開かれる。今年は新型コロナウイルスの感染拡大の懸念により映画祭が中止されていた。その代わりに、テルライド映画祭の冠をつけたイベントがロサンゼルスで行われることになった。

バンに乗ったノマドたちがキャンプグラウンドに集まるように、夕方から車が集まり始め、社会的距離を保つために会場に設置されたフード・トラックのオーダーも携帯電話で行い、準備ができるとショートメッセージが送られてくる。パサデナ市やロサンゼルス市を含むロサンゼルス郡は現在もコロナウイルス感染拡大中のカテゴリーに属し、屋内遊戯施設やレストランの営業は許可されていない。その上、数週間に渡る熱波の影響を受け、パサデナ市の北東でも山火事“ボブキャット・ファイア”が起きており、灰が舞い空気汚染が懸念されている。映画の上映に先がけてフランシス・マクドーマンドがクロエ・ジャオ監督、原作者のジェシカ・ブルーダーらを壇上に呼ぶと、拍手の代わりに車のクラクションとライト点滅で迎え入れた。

【写真を見る】主演のマクドーマンド、ジャオ監督、原作者のジェシカが揃って登壇
【写真を見る】主演のマクドーマンド、ジャオ監督、原作者のジェシカが揃って登壇

映画の上映終了後には再びクラクションとライト点滅でジャオ監督とキャストを迎え入れ、Q&Aが行われた。プロデューサーでありファーンを演じたマクドーマンドは「45歳くらいのころ、夫(映画監督のジョエル・コーエン)に『65歳になったら名前をファーンに変えて、ラッキー・ストライクを吸いワイルド・ターキーを呑んで、RVに乗って路上生活を始める』と宣言していた。つまり、4年早くそれが訪れたということ。クロエと私はノマドの世界に招き入れられ、彼らを観察し、話に耳を傾けました。これは、この特殊な時期にある世界を捉えた作品です。映画の中の彼らは高齢者のリーダーだけど、彼らがその土地とつながり、生きていく様子から学べることがあるはず」と語る。

ジャオ監督は「ジェシカ(原作者)は著作の中でノマドの人々の暮らしを描き、彼女の視点から知ることができました。映画にするにあたり、ノマドの人々の様々な人生をいかにファーンの物語につなげていくかということに腐心しました。大きな挑戦でもあり、報いでもありました」と、ノンフィクション作品をフィクション作品に脚色した挑戦を語った。また、映画の中でファーンたちがAmazon.comの配送センターで働く描写についての質問には「私は政治についての映画を作るつもりはありませんでした。解釈を取り除き、人々の実際の生活や人生について描きたいと考えていました」とジャオ監督が言うと、マクドーマンドが「彼ら(Amazon)に電話し、許諾を得ただけです。一緒に働いた仲間から、たくさんのことを学びました。映画の中のファーンが従業員オフィスで言う『仕事が必要なんです。働きたいんです』という言葉に尽きます」と付け加えた。

実話を元に脚本を書いたクロエ・ジャオ監督
実話を元に脚本を書いたクロエ・ジャオ監督写真:SPLASH/アフロ

また、ジャオ監督の『ザ・ライダー』(17)を含む過去2作でも組んでいる撮影監督でパートナーのジョシュア・ジェームズ・リチャーズの撮影についての質問に、「風景も物語の一部と考えていました。撮影中にもハリケーンが来たり、雪が降ったりする環境のなか、十分な撮影ができないこともありましたが、編集室で観てみると、全て意味のある撮影になっていました。ジョシュアは『こうしたらいいんじゃないか?』と悩んだりしません。霧の中の山など、彼が見た景色がそのまま映されています。それが物語の一部になることを学びました」とジャオ監督は答えた。

ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、幸先のいいスタートを切った『ノマドランド』。北米では12月公開予定で、2021年の賞レースでも最注目作品となるだろう。日本公開は2021年1月を予定している。

文/平井伊都子

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