「ひとりの女性がどうやって生きていくのか」青山真治監督が『空に住む』で大切にしたテーマとは?
『EUREKA(ユリイカ)』(00)で第53回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞とエキュメニカル審査員賞を、『東京公園』(11)で第64回ロカルノ国際映画祭審査員賞に輝いた青山真治監督が、『共喰い』(13)以来7年ぶりにメガホンをとった『空に住む』が10月23日(金)より公開される。このたび本作の新たな場面写真とともに、監督生活25年にして新境地に挑んだ青山監督が制作の裏側を振り返るコメントが到着した。
EXILEなどの楽曲の作詞家としても知られる小竹正人の小説を原作にした本作は、自分をさらけ出すことのないまま懸命に生きる現代の女性たちの姿を描いた物語。両親の急死を受け止めきれぬまま、都会を見下ろすタワーマンションの高層階に住むことになった直実(多部未華子)。黒ネコのハルと暮らし、気心の知れた仲間に囲まれた職場でも喪失感を抱える彼女の前に現れたのは、同じマンションに住むスター俳優の時戸森則(岩田剛典)。彼との夢のような逢瀬に溺れるうち、直実の日常に変化が訪れていく。
本作の企画を提案された時、映画を作る上で“自分になにができるか”を考えたという青山監督は、長い時間をかけて脚本を練りあげていったという。「池田千尋さんと脚本を作っていくなかで、まず考えたのは『この主人公はなにをして生きているの?』ということでした。どうしても仕事をしている人にしたかったし、一人の女性がどうやって生きていくのかを大事にしたかった」と、多部が演じる直実のキャラクターが作りあげられていった過程を振り返る。
直実は、原作では孤独感や寂しさから弱い部分を見せることもあるが、映画ではまったく弱みを表に出そうとしない。しかしそんな直実に対し、岸井ゆきの演じる後輩の愛子や、美村里江演じる叔母の明日子は心を開き、少しずつ弱みを見せることで直実の気持ちや考え方に変化を与えていく。監督は「周りの人間たちがちょっとずつ弱みを見せて、それに反応している主人公という構図を見せたかった。結局自分が一番やろうとしていたことはそこだと思います」と、その意図を明かしている。
そして、最も注力したのは直実が“どう生きていくのか”を描くことだった。監督は「僕も両親を亡くしていますが、だからと言ってグズグズ泣いたことはない。でもたまに、なにかあって両親に訊こうと思うと『もう訊けないんだ』というタイムラグがあるんです。そこが直実のテンションの低さや、穏やかさにつながったんじゃないかな」と分析。それについては多部自身も「直実は浮遊しているように見えて、一番人に左右されずに生きられる、意外と強い人」だと語っていた。
そんな多部は、本作を振り返り「青山監督の描く作品の空気は、言葉にできないとても独特な世界観。撮影をしていた1ヶ月はとにかくその世界観にどっぷりと浸かりたいという思いで必死だったような気がします」と振り返り、「誰かの心の片隅になることを願っています」と期待を寄せている。これまで静謐なラブストーリーから緊迫感あふれるサスペンスまで幅広い作品を手掛けてきた青山監督が新たに生みだした、女性たちにエールを送る珠玉の物語と、したたかで魅力的なヒロイン像を是非とも劇場で見届けてほしい。
文/久保田和馬