オバマ元大統領も絶賛の話題作で描かれる、“最もお金がかかる街”サンフランシスコの実情
11月3日(現地時間)は、アメリカの選挙投票日。期日前投票は過去最高をマークしており、その行方に世界の注目が集まっている。近年、貧富の格差を描く映画が次々と作られ、高い評価を獲得しているが、そんな中から公開中の『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』を紹介したい。本作はとある家を題材に、社会の問題を浮き彫りにしていく意欲作だ。
オバマ元大統領も太鼓判!信頼の映画会社による意欲作
ここ数年、話題作を連発している信頼の映画会社A24と、ブラッド・ピットが率いることでも知られ、社会派作品を得意とする製作プロダクションのプランBがタッグを組んだ『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』。サンダンス映画祭で監督賞と審査員特別賞をW受賞し、さらに例年、その年の良かった映画を発表し映画ファンからも注目を集めているオバマ元大統領が、2019年のベスト映画の一つに選出するなど、そのクオリティはお墨付きの一作だ。
長編デビューとなるジョー・タルボット監督の自らの経験に基づいて作られた本作。サンフランシスコで生まれ育った主人公のジミー(ジミー・フェイルズ)は、祖父が建て、かつて家族で暮らしていた美しい家を愛し、またいつかこの家に住みたいと思っていた。そんなある日、現在の家主が家を手放すことになり、ジミーは親友のモント(ジョナサン・メジャース)とともに、家を取り戻そうと奔走する。だが彼らの前に、急速な発展を遂げる現在のサンフランシスコという街が立ちはだかり…。
ジェントリフィケーションによる影響の数々
サンフランシスコは、ITの中心地シリコンバレーが近いこともあり、多くのIT、ベンチャー企業が進出し急激な発展を遂げてきた。中産階級層が都市に流入することで、それに伴い地域の経済や住民の構成が再編されていく、ジェントリフィケーションの典型的な一例として挙げられる街だ。
住人の階層と共に居住も変化していき、劇中で描かれているように、低所得者層や高齢者が暮らす古くからのアパートや家屋が取り壊され、新たな高級コンドミニアムなどへと生まれ変わっていく、ということが頻繁に行われている。劇中でジミーのかつての家が建っているフィルモア地区もまた、元々は移民などが多く暮らす地域であったが、いまでは洗練されたショップやカフェなどが立ち並ぶ屈指のオシャレ地区として有名な観光地で、多くの裕福な白人が暮らす場所になっている。
その影響から行き場を失っているのが、代々住んでいた人々で、ジミーを実名で演じているフェイルズも実際にそういった経験をした一人。そして彼らが追いやられるのが、都市部から離れた不便な地域だ。映画で主人公たちはハンターズポイントと呼ばれる地域で生活しているが、ここは、防護服の白人が作業している様子を黒人の少女が生身で静観している映画冒頭のショッキングなシーンからもわかるように、環境、そして治安も悪い場所として知られている地区だ。
アメリカで最も家賃が高いといわれるサンフランシスコ
劇中、ジミーのかつての家には400万ドルという莫大な売り値が付けられているが、実際サンフランシスコは、いまではアメリカで最もお金がかかる都市と言われている。最近では新型コロナウイルスの影響による勤務形態の変化から家賃が急落しているが、それでも高級なエリアでは、ある不動産サイトによると1ベッドルーム(日本でいう1LDKのようなもの)の平均家賃が3360ドル(約36万5000円)ほどだというから驚きだ。
昨年は、計算上で4人家族の場合、世帯収入が11万7400ドル(約1300万円)以下では低所得者とみなされるという数字も出ているなど、世界屈指の高級都市となっているサンフランシスコ。劇中のジミーが過去に車で生活していたことが語られていたが、実際サンフランシスコでは、車中泊をしている人が2017年から19年の間に45%も増えたという。家を失った人々が急増しており、大きな問題となっているのだ。
日本でも、近年あらゆる場所で街の再開発が行われているが、そういった華やかな変化の裏側で、大切な場所から追い出され、行き場を失う人がいるということを、この映画を観て再確認できるかもしれない。
文/トライワークス