“韓国の母”『母なる証明』ジュノ監督の刺激的な演出に仰天
『殺人の追憶』(03)、『グエムル 漢江の怪物』(06)など次々と話題作を発表し、国際的に注目を浴びている韓国のポン・ジュノ監督が、“韓国の母”と称される大女優キム・ヘジャ、兵役後初の映画出演を果たしたウォンビンと共に来日。記者会見で新作『母なる証明』の見どころを語った。
「この映画の出発点はキム・ヘジャさんでした」と監督が言うように、『母なる証明』はポン・ジュノ監督が女優キム・ヘジャと一緒に映画を作りたいと思ったことがそもそものきっかけだった。
「彼女は韓国で母親の象徴のような人。彼女と仕事をするためにどんなストーリーを作ったらいいのだろう……と、いろいろ考えましたが“彼女を撮ること=母をテーマにすること”でした。そして、極限まで彼女が演じる“母”を追いつめてみようと思ったのです」。
そのアイデアは『グエムル 漢江の怪物』の撮影準備をしていた2004年に思い付き、翌年の2005年の冬にキム・ヘジャに“母”役をオファーしたそうだが、「彼女がこの物語を気に入ってくれなかったらどうしよう……」と不安と緊張であったと当時を振り返る。
もちろん、キム・ヘジャはポン・ジュノ監督が描くストーリーをすぐに気に入り、5年の歳月をかけて役を自分のものにしていった。けれど、殺人事件の容疑者となった息子を救うため、真犯人を追う母親の姿を演じるにあたり、息子を愛するがゆえの狂気とも捉えられる無償の愛情を表現することはたやすくはなかった。
「私の演じた母親は、人間の母親というよりも傷を負った動物的な母親です。心理的に理解できても演じることが難しいときもありました。そんな時はずっと監督の顔を見つめていました。そうすると監督はニコニコとした笑顔で、例えば焼きごてのようなもので胸を突かれたら? 頭にドライバーのようなものをねじ込まれたら? と、ゾクッとする話をするんです」とキム・ヘジャ。監督のそのゾクッとするアドバイスのおかげで身体が自然と硬直し、悲鳴すら出せない心境になったのだとか。
また、息子・トジュン役のウォンビンも「難しい演技が必要なシーンのとき、リハーサルのように気楽に演じられる空気を作ってくれました」と、ポン・ジュノ監督の演出の素晴らしさを伝える。“母”を追いつめる存在=子供の心を持ったままの青年を演じるにあたっては、「上辺だけの純粋さではなく、内面から滲み出てくるような純粋さを演じられるように心がけました」と、母親を不安にさせる息子を意識して演じたと語る。
最後にポン・ジュノ監督が「世界中でハリウッド映画を観る人が多いですが、韓国、日本、中国……アジアでは多くのいい映画が作られています。アメリカではない国々の人たちがお互いの国の映画を鑑賞し合って、文化を知り合える日がくることを切に願っています」と、メッセージを贈った。『母なる証明』がその架け橋のひとつとなることは間違いない。【取材・文/新谷里映】