水川あさみ、コロナ禍で「心が折れそうになる瞬間がある」と不安吐露も『滑走路』に願い託す
第33回東京国際映画祭の特別招待作品『滑走路』(11月20日公開)の舞台挨拶が11月3日にEXシアター六本木で開催され、水川あさみ、浅香航大、寄川歌太、大庭功睦監督が登壇。水川が、コロナ禍において「心が折れそうになったりする瞬間がある」と告白。逆境のなかでも希望を見つけようとする人々を描く映画が完成し、「心をそっと撫でてくれるような、そんな映画になればいいなと思います」と願いを語った。
いじめや非正規雇用といった自身の経験をもとに短歌を発表し続け、32歳の若さでこの世を去った歌人、萩原慎一郎の「歌集 滑走路」を映画化した本作。現代社会をもがき生きる人々の姿を鮮烈に描く。
将来への不安を抱える切り絵作家を演じた水川は、「もしこのまま、世の中がこの距離感を保ったまま続いていくと思うと、心が折れそうになったりする瞬間がある。私たちは表現するお仕事をしているけれど、ソーシャル(ディスタンス)をとることが当たり前になる世の中を受け入れてしまうことを、いまだにちょっと怖いなって思いながら生きている」と胸の内を吐露。「この映画は、転がるように私のところに来てくれた。『いま、やれ』ということなのかなと思った」とオファーを受けた心境を振り返った。
またこの日は、原作「歌集 滑走路」からお気に入りの一首を発表することに。水川は「自転車のペダル漕ぎつつ選択の連続である人生をゆけ」、浅香は「破滅するその前にさえ美はあるぞ 例えば太陽が沈むその前」、人生初の舞台挨拶の登壇となった寄川は「ぼくたちはロボットじゃないからときに飽きたり眠くなったりするさ」、大庭監督は「遠くからみてもあなたとわかるのはあなたがあなたしかいないから」との歌をセレクト。
水川は「人って、1日のなかで何万通りの選択をして生きていく。その選択が間違っても、正解でもなんでいいから、それを受け入れていくという強さを感じたので、これにしました」とコメント。寄川は「自分は飽き性というか、何事もあまり続かないところがあって。唯一続いているのが芝居。芝居をしている間は、芝居のことだけを考えられる。ほかのことをしていると眠くなってしまうこともある」と話していた。
また大庭監督は「歌集のレビューを読むと、老若男女、歌集のなかで好きな歌がそれぞれ違った。そして、その歌に内面や自分の過去を投影して、想いを吐露していた。多様に受け止められる歌集だから、映画も多様性があったほうがいいと思って群像劇にした」と映画に込めた想いを語り、「萩原慎一郎さんが命を削った歌集がなければ、すべては存在しなかった。今日はどこかで萩原さんがご覧になっている気がする。ありがとうございますとお伝えしたい」と心を込めていた。
取材・文/成田おり枝
※歌は、萩原慎一郎「歌集 滑走路」(角川文化振興財団、KADOKAWA刊)収録