名作「シラノ・ド・ベルジュラック」も誕生!19世紀のパリを席巻した“ベル・エポック”の魅力
今なお世界中で上映され続けている舞台劇の誕生秘話を映画化した『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』(公開中)。100年以上の長きにわたり愛され続ける戯曲が生まれた背景には、パリからヨーロッパ全土に広がった “ベル・エポック”の潮流があった。
ベル・エポックとは直訳すると「美しき時代/良き時代」のこと。19世紀後半から20世紀初頭のフランスでは産業革命によって資本主義が成熟。植物などの自然をデザインに取り入れたデコラティブな装飾芸術“アールヌーヴォー”がもてはやされ、豊かで華やかなパリの雰囲気が芸術家たちの感性を刺激した時代だった。
そのレトロな魅力を巧みに作品内に盛り込んだのが、ウッディ・アレン監督作『ミッドナイト・イン・パリ』(11)。懐古趣味のある脚本家ギル(オーウェン・ウィルソン)は、おしゃれで美しい女性アドリアナ(マリオン・コティヤール)とともにベル・エポックのパリに迷い込み、そこでフレンチ・カンカンを鑑賞した後に後期印象派画家として知られるロートレックやゴーギャン、ドガらと言葉を交わす。夜な夜な行きつけのブラッスリーに集い、議論を戦わせた芸術家たちの当時の生活が偲ばれる印象的なシーンだ。
また実在のロートレックがご贔屓にしたとともに絵画のモチーフに用いたパリ・モンマルトルのキャバレー「ムーラン・ルージュ」も当時の流行を語る上ではずせないものの1つ。映画の題材としてもフレンチ・カンカンとムーラン・ルージュの誕生を描いた『フレンチ・カンカン』(54)や、ユアン・マクレガーとニコール・キッドマンが“作家志望の若者と踊り子の恋”を情熱的に体現したミュージカル映画『ムーラン・ルージュ』(01)ほか幾度となく映像化されているので、ご興味がある方はこちらもぜひご覧いただきたい。
このように文化・芸術が花開いたパリで戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」は誕生し、目の肥えた紳士淑女たちに賞賛をもって迎えられた。そして、この笑って泣ける傑作が完成するまでの大騒動を描く『シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!』は、ベル・エポック真っ只中にある1895年のパリから幕開けする。
前作の失敗から二年、スランプに陥った劇作家であり詩人のエドモン・ロスタン(トマ・ソリヴェレス)は、彼の才能を高く評価する大物女優サラ・ベルナール(クレマンティーヌ・セラリエ)の口利きで名優コンスタン・コクラン(オリヴィエ・グルメ)と出会い、”喜劇“をすぐに書くよう指示される。
ストーリーに関して全く白紙状態だったエドモンは悩みながらパリの街をウロつくのだが、劇中では彼に様々な着想のヒントを与える知識人オノレ(ジャン=ミシェル・マルシアル)が営む洒落た雰囲気のカフェや、友人にして俳優のレオ(トム・レーブ)と行った酒場で踊られているフレンチ・カンカン、その帰り道に通りかかるネオンきらめくムーラン・ルージュほか、ベル・エポックの象徴的アイコンが随所に顔をのぞかせ、心躍らされる。
また注目すべきは、エドモンとレオ、そしてレオが想いを寄せる衣装係ジャンヌ(リュシー・ブジュナー)との関係だ。ジャンヌの才気あふれる言葉のセンスに創作意欲をかきたてられたエドモンは、レオに代わってジャンヌと文通を始め、妻をやきもきさせてもなおアイデアを貰い続けることで新たな騒動へとつながっていく。それが軽快な笑いを生む一方で、最後に明かされるエドモンの想いに考えさせられる者もいるだろう。
果たして舞台は無事にフィナーレを迎えられるのか? ベル・エポックという新たなムーブメントに必死に喰らいついていこうとする若き芸術家の気概とともに、往年の名作の裏側を堪能して欲しい。
文/足立美由紀
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