「舞台と配信、二つの歌舞伎が存在する時代に…」松本幸四郎と市川猿之助が新時代の歌舞伎を語る

インタビュー

「舞台と配信、二つの歌舞伎が存在する時代に…」松本幸四郎と市川猿之助が新時代の歌舞伎を語る

「二つの歌舞伎の新作を提供する時代になったような気がします」(猿之助)

コロナ禍で変化を求められた歌舞伎界で、新たなスタイルに挑戦する幸四郎と猿之助
コロナ禍で変化を求められた歌舞伎界で、新たなスタイルに挑戦する幸四郎と猿之助撮影/黒羽政士

――外国語の字幕はつけないんですか?

猿之助「海外に通じる歌舞伎作品は初めてだと思っています。しかも、僕はそれを字幕ではなく英語の吹替えでやった方がいいと思っていて。今回は国内の配信からスタートするけど、ハリウッド映画みたいなオープニングにしたのも海外で観てもらうのを見据えてのことだし、ラストには世界中の人たちが共鳴する仕掛けを用意しています」

幸四郎「字幕は情報をただ伝えるだけだけど、英語でやることによって日本語版とはまた違うおもしろみが出るでしょうからね」

猿之助「歌舞伎俳優の中にもビックリするくらい英語に堪能な人がいるので、彼らに頼めば歌舞伎役者のセリフ回しで英語が話せるし、女形の声色もできる。世界配信になった時には彼らが吹替えをやったら一番いいと思います。いままでは歌舞伎役者に英語はいらないって思われていたけれど、これからの時代は歌舞伎役者も英語が話せることが武器になるような気がします」

おちゃめに振る舞う二人
おちゃめに振る舞う二人撮影/黒羽政士

――今回はAmazon Prime Videoでの配信ですが、歌舞伎を観たことがない人も観るでしょうし、確実に間口が広がると思います。

幸四郎「歌舞伎の伝統や歴史は長く受け継がれていかなければいけないものですが、表現する場所があって初めて価値があると思います。それに、歌舞伎にとっては“配信”は新しいことですけど、配信のドラマはいま誕生したわけではないので、そこに表現の場が広がるのは当然のことでした」


猿之助「現状に満足している平和な時代や物が豊かな時には、あまり新しいものは生まれないですよね。逆に、危機的な状況の時の方が人間は絶対に進化する。文明の繰り返しがそれを証明しているし、そういう意味では、僕はいまが、新しいものに挑戦するチャンスなのだと思います」

図夢歌舞伎「弥次喜多」はAmazon Prime Videoにて、12月26日(土)より独占レンタル配信開始
図夢歌舞伎「弥次喜多」はAmazon Prime Videoにて、12月26日(土)より独占レンタル配信開始 図夢歌舞伎「弥次喜多」 Amazon Prime Video 12月26日より独占レンタル配信開始 [c]松竹

幸四郎「僕は、舞台の歌舞伎と配信の歌舞伎は両方とも存在しうるものだと思っています。この二つはまったく違うものだし、自分の生活に合わせて自由に観られる配信の歌舞伎が一般的になっても、日時を決めて生の歌舞伎を観に行くという選択肢がなくなるわけではない。新しい興行形態がまた一つできたということに過ぎません。2020年は、これからも作り続けられるであろう“図夢歌舞伎”が生まれた最初の年だと僕は認識しています」

猿之助「僕はもう世の中が元に戻ることはないと思っています。ですから、次世代の歌舞伎役者は歌舞伎の基本的な知識と教養、鳴り物や三味線、長唄や日本舞踊などのスキルとともに映像の知識や技術が絶対に必要になってくる。なぜなら、いままでは歌舞伎を観ていただくには劇場にいらしてくださいというアプローチしかなかったけれど、これからは“図夢歌舞伎”の新作を観たいという人がどんどん出てくるから。だから我々は、舞台と一緒に“図夢歌舞伎”の新作も提供していかなければならない。時代はそこに来たような気がしています」

笑顔あふれる幸四郎と猿之助
笑顔あふれる幸四郎と猿之助撮影/黒羽政士

取材・文/イソガイマサト

■図夢歌舞伎「弥次喜多」(ずぅむかぶき やじきた)
配信元:Amazon Prime Video(国内独占レンタル配信) 112分
独占配信開始:2020年12月26日(土)
レンタル料:1,900円(税込)

■予告編


■特別映像

作品情報へ