【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第27回 眩い恋

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【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第27回 眩い恋

「DVD&動画配信でーた」にて好評連載中の、注目の若手監督・松本花奈による日々雑感エッセイ「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」。第27回は、松本監督の知り合いの、ある漫画家と編集者の”眩い恋”のエピソード。

第27回 眩い恋

2020年を一文字で表すと、紛れもなく「恋」であり、きっと人生で一番と言えるくらい「恋」について沢山考えた年だった。というのも、恋にまつわるショートフィルムを7エピソード撮る企画をここ1年ほどやっていたからだ。年上の彼氏に追い付きたい、初恋を引きずったまま大人になってしまったなど…。ストーリーをつくるにあたり参考までにと同じ企画をやっているメンバーや、周りの友人らから恋バナを聞かせてもらったのだが、その中で特に心に残っている恋の話がある。

それは漫画家さん(男)と、その担当編集者さん(女)の話だ。私は編集者さんの知り合いなのだが、その漫画家さんの作品は有名なものばかりで読んだことがあったので、「実は好きな人がいて、」の後に出てきた彼の名を聞いて、何だかのっぴきならないスキャンダルを聞いてしまったような気がして落ち着かなくなった。

頻繁に連絡を取り合う、仕事だから。企画を練るため2人きりで話すこともある、仕事だから。徹夜で一緒に作業をすることもある、仕事だから…。仕事でも会えたらうれしいんです、ああ私は本当にダメな女。「それで仕事も恋もモチベーション高くやれるなら別に良いんじゃん?」と私が言うと、そうなのよと彼女は続けた。

漫画家の彼は今年28歳になるが、今まで一度も彼女がいたことはないと言う。童貞?と聞くと、はい、と答えるくせに平気で彼女を家に泊め、そして何もしない。

そんな関係がしばらく続いたなか、ある打ち合わせの帰り、「そういえば○○さん(彼女)って、いつも僕の右側にいますよね?」と聞かれたそうだ。彼女はこの人になら話しても良いかなと思い、幼い時のトラウマで右側に人が立たれると怖いことを打ち明けた。彼はその話を聞くや否や、彼女を近くの公園に連れ出した。何をしだすのかと戸惑う彼女の正面に立つと、「今からあなたの周りを時計回りにグルッと一周するのでどこまでがいけるのか教えてください」と言い放った。90度、ここはいけますね?…180度、ここもまだ大丈夫?…200度、ここはどうですか?…260度、ここはキツイ?…じゃあ250度、ここなら?…「分かりました、245度です。うん、良いじゃないですか。僕は245度分のあなたの姿を見ることができるみたいです。そんなに見せてくれるなら、充分です!」そう話す彼の背後からは眩い西日が差していて、彼女は不覚にも「…好きだ」とつぶやいたらしい。

同じ相手にだって、人は何度も恋に落ちる。
眩い光の中でそう感じたと語る彼女に、私は切に羨望したのだった。

文/松本花奈

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撮影/松本花奈

●松本花奈プロフィール

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1998年生まれ。映像監督。主な監督作は映画『脱脱脱脱17』(16)、『キスカム!~COME ON, KiSS ME AGAIN!~』(19)など。『実写版「ホリミヤ」』映画版が21年2月5日公開、ドラマ版が2月16日放送開始。

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