オンライン開催のサンダンス映画祭が閉幕。『CODA』が三冠、園子温ハリウッドデビュー作もプレミア上映
1月28日から約6日間にわたってオンライン開催されていたサンダンス映画祭が閉幕した。プレミア上映やアーティスト・トークはすべてオンライン配信、そして全米15か所の屋外上映や、映画館を使ったサテライト・スクリーニングも行われた。これはすべてサンダンスにとって初めての試みだが、スケジューリングからQ&Aの見せ方まで、パンデミックと共存する映画祭のあり方を考え抜いた運営になっていたと思う。
2021年度の上映作品は約3500本の応募作品から選出された73本の長編映画、9933本から選ばれた50本の短編映画、1642本から選ばれた30本のドキュメンタリー作品というラインナップ。例年よりも応募作品が減ったそうだが、長編映画73本中35本が女性監督による作品、32本が有色人種監督による作品、6本がLGBTQ+に属する監督による作品だそうだ。特に、年々需要と注目が高まっているドキュメンタリー作品は、時代を反映したものからサスペンス要素のあるものまで幅広いセレクションとなっていた。
園子温監督がニコラス・ケイジを主演に日本で撮影した『Prisoners of the Ghostland』もプレミア部門で上映。企画当初はメキシコで撮る予定だったのが、園監督が撮影準備期間中に心筋梗塞で入院した際に、ニコラス・ケイジより「日本で撮影したらどうか」と提案されたのだという。また、ロビン・ライトの長編映画初監督作品『Land』、レベッカ・ホールの長編映画初監督作品『Passing』など、女優出身監督による作品も目立った。
USドラマ部門の観客賞、審査委員賞、監督賞は、シアン・ヘイダー監督の『CODA』が受賞した。フランス映画、エリック・ラルティゴ監督の『エール!』(14)の米国版リメイク作品で、聾唖者の一家でひとりだけ耳が聞こえる少女が、自分が生きる道を選ぶ物語。ヘイダー監督は女優としてドラマシリーズなどに出演したのちに「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」の脚本チームに参加、『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』などで演出を手掛けている。
昨年はNetflix作品であるテイラー・スウィフトの『ミス・アメリカーナ』(20)や、オバマ元大統領の製作会社による『ハンディキャップ・キャンプ: 障がい者運動の夜明け』(20)、SNSの脅威を元運営側の証言で浮き彫りにする『監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影』(20)など、社会や時代を映すドキュメンタリーの秀作が多く上映された。今年は『一人っ子の国』(19)のナンフー・ワン監督が、新型コロナウイルスの第一号患者が確認されてからの中国とアメリカの感染対策を追った『In the Same Breath』、70年代から活躍するバンド、スパークスのメイル兄弟をエドガー・ライト監督が撮った『The Sparks Brothers』、世界的に有名なダンスカンパニーを率いたアルヴィン・エイリーのドキュメンタリー『Ailey』などが上映された。
1971年の『ベニスに死す』でベルナルド・ベルトルッチ監督に見出された、スウェーデンのビョルン・アンドレセンの50年間を振り返る『The Most Beautiful Boy in the World』では、当時の日本での熱狂ぶりや、漫画家の池田理代子がアンドレセンをモデルに「ベルサイユのばら」を描いたことなどが明かされている。USドキュメンタリー部門の観客賞と審査員賞は、クエストラブことアミール・カリブ・トンプソンが監督したウッドストックと同年の、1969年にNYのハーレムで開催された音楽フェスのドキュメンタリー『Summer Of Soul (…Or, When The Revolution Could Not Be Televised)』が受賞している。
例年ならばアカデミー賞のノミネーション発表直後の開催で、翌年のオスカー候補作がお披露目されるサンダンス映画祭だが、今年はアカデミー賞授賞式が4月に延期されたことに伴い、少し様子の違う映画祭となった。応募作の減少は、パンデミックの影響もあるが、アメリカの主要都市の映画館が閉鎖されて10か月、いまだに映画館の再オープンが見えないなかで新作を世に出す状況が見えないのも理由の一つ。
USドラマ部門で、観客賞など3冠に輝いた『CODA』は、映画祭初日に上映されて以来好評を博し、数社の間で争奪戦になった結果Apple TV+が、サンダンス映画祭史上最高額の25ミリオンドルで落札している。作品の権利料が高騰したこともあるが、劇場公開できていない作品が渋滞を引き起こしているために、新作購入を諦めた配給会社もあると報じられている。コロナ時代のニュー・ノーマルと共存するように設計されたサンダンス映画祭だったが、良い作品が上映されるたびに、満員の映画館で興奮を分かち合った体験が恋しくなる。観客も事務局も映画出品者も、誰もが同じ感想を抱いたことだろう。
文/平井伊都子