アカデミー賞最有力!『ノマドランド』で注目のアジア人女性監督クロエ・ジャオとは?
第77回ベネチア国際映画祭金獅子賞、第45回トロント国際映画祭観客賞を獲得し、先日発表された第78回ゴールデン・グローブ賞では作品賞(ドラマ部門)、監督賞(映画部門)の主要2部門を受賞した『ノマドランド』(3月26日公開)。第93回アカデミー賞(4月26日発表)でアジア人女性初の監督賞受賞の呼び声も高い、本作のクロエ・ジャオ監督に注目が集まっている。「国際女性デー」でもある本日、映画界において多様性を象徴するような存在感を見せる監督と、その作風について触れていきたい。
『ノマドランド』は『スリー・ビルボード』(17)のフランシス・マクドーマンドが主演を務めるヒューマン・ドラマ。企業の破たんとともに長年住み慣れた住居も失い、キャンピングカーに亡き夫との思い出を詰め込み、“現代のノマド=遊牧民”として季節労働の現場を渡り歩くファーン(マクドーマンド)。そんな彼女が日々を懸命に乗り越え、旅先で出会うノマドたちと交流を繰り広げる姿が描かれる。
中国生まれのジャオ監督はニューヨーク大学で映画制作を学んだ後に初の長編監督作『Songs My Brothers Taught Me』(15)を発表。2作目の『ザ・ライダー』(17)がカンヌ国際映画祭監督週間でアート・シネマ賞を受賞し、ほかにも24の映画賞を受賞した。カンヌで『ザ・ライダー』を観て感銘を受けたマクドーマンドからのオファーにより、本作の監督に抜擢され、ゴールデン・グローブ賞では最高賞のひとつである作品賞(ドラマ部門)の受賞に加え、アジア人女性初の監督賞を受賞するという快挙を成し遂げた。
『ザ・ライダー』で出演者に俳優ではなく、物語のモデルとなった本人たちを起用するという大胆な演出方法で、登場人物のリアリティ溢れる表情を巧みに捉えて高く評価されたジャオ監督。住居を失い、車上で生活を送る“高齢者=ノマド”の厳しいながら希望にも満ちた姿を描く本作においても、マクドーマンドとオリジナルキャラクターのノマドを演じたデヴィッド・ストラザーン以外のノマド役には、実際に車上で生活しているノマドを起用。そして、監督、マクドーマンド、ストラザーンらもノマドたちの生活になじむために車上生活をするなど、ドキュメンタリーにも似た撮影が行われた。
マクドーマンドは「クロエの手法は今まで私が経験したどの撮影とも違う方法でしたが、難しくはありませんでした。それは映画を作るプロセスではなく、人々の人生のプロセスを尊重していたからです。彼ら(ノマド)の真の生活に入り込もうと努力をしました」と撮影を振り返っている。そんな独特の演出がアカデミー賞主演女優賞を2度獲得した名優マクドーマンドの演技を得て、どんなドラマを生み出しているのか期待が高まる。
アベンジャーズに続く、新たな最強ヒーローチームが活躍するマーベル・スタジオの超大作『エターナルズ』(21)の監督にも大抜擢されたジャオ監督。アカデミー賞の結果に加え、国際社会の最前線で活躍する女性として今後の動きにも目が離せない。
文/サンクレイオ翼