『愛がなんだ』の今泉力哉監督が描く恋愛群像劇!作家・松久淳が語る『街の上で』

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『愛がなんだ』の今泉力哉監督が描く恋愛群像劇!作家・松久淳が語る『街の上で』

全国11チェーンの劇場で配布されるインシアターマガジン「月刊シネコンウォーカー」&「月刊イオンエンターテイメントマガジン」で人気コラム「地球は男で回ってる when a man loves a man」を連載中の作家・松久淳。今回は、『愛がなんだ』の今泉力哉監督がオール下北沢ロケで制作した群像劇『街の上で』(4月9日公開)の見どころを語る!

【写真を見る】『愛がなんだ』でナカハラを演じた若葉竜也が単独初主演
【写真を見る】『愛がなんだ』でナカハラを演じた若葉竜也が単独初主演[c]『街の上で』 フィルムパートナーズ

毛嫌いしていた街が舞台の、愛おしく幸せな気分になる群像劇


観ている間、ずっと幸せな映画。
『街の上で』の感想を集約すると、この1行になるでしょうか。
先に謝っておきますが、この映画に出てくるアイテムは、全部偏屈なおっさん(私)が、毛嫌いするものばかりでした。
下北沢。古着屋。ライブハウス。常連のバー。洋雑誌を扱ってる古本屋。輸入盤レコードを飾ってるカフェ。文化系女子。いまどきの気も声も張らない男の子。他愛のない男女のやりとり。恋愛話。10年前のオシャレ系漫画。ヴィム・ヴェンダースの話題。映画談議。美大生の自主制作映画。
「珉亭」(有名な町中華)すらオシャレな下北沢。
こんなものばっかり出てくる映画、本来私、苦手なはずなんです。
鬱屈しているようで、うまくいっていないようで、でも下北沢という街で自然体のまま生きてるだけで、超オシャレじゃんと思ってしまうのです。しかも、ふられようが悩みがあろうが、周りにかわいい女の子たちがいっぱいいるし。
劣等感丸出しですが。

そして普段伏せているのですが、20代のころ、私自身がオシャレサブカル雑誌の編集者でした。だからこそ、反動でよりそう思ってしまうのかもしれません。
そんなわけで、ふだんから若者に媚びる大人とか、若者文化に理解ある風の大人なんかをいちばん嫌ってる、了見の狭すぎる私。そんな私が観る、下北沢の若者感満載の今泉力哉監督作『街の上で』。

見事に、やられました。
へたくそな映画なら、うわっつらだけの映画なら、確実に(一応ひっそり)「けっ」と毒づいて、この連載の候補になることすらなかったでしょう。ところが、そろそろ終盤なんだろうなというころ、「どうか終わらないで。ずっとこの映画を観させて」と願ってる自分がいました。
自分のくだらないこだわりなんてどうでもいい。そんなもの全部蹴っ飛ばしてくれるくらい、すてきな映画だったのでした。
流れる時間とそこに生きる登場人物たちすべての、なんて愛おしいこと。彼女にふられた古着屋勤めの主人公。変わらぬ日常のなかで、店にやって来た美大生から映画の撮影に参加してくれと頼まれた彼と、その前後で出会った女の子たちとの、ちょっとしたエピソードの数々。
それだけなんです。
それだけなのに、なんだろう、泣くとか笑うとかそんなことでなく(あ、かなり笑いどころはあるのですが)、でもずっと、「ああ幸せ」な時間が過ぎていきます。今泉監督の『愛がなんだ』も最高にすてきな映画でしたが、これだけ物語に起伏がないのに、『愛がなんだ』以上に引き込まれてしまう。そして、あふれる多幸感。
主演の若葉竜也さん、『愛がなんだ』も『あの頃。』も最高でしたが、それ以上に、すごすぎました。『葛城事件』くらいから(遅くてすいません)ずっと気になる俳優さんでしたが、本作ではずーっと、なんだかいたたまれない雰囲気と、でも時に空気を読まない感じや、ずぼらさを同時に見せるたたずまい。これこそが「ずっとこの映画の時間を過ごしていたい」と思わせる最大の魅力なのは間違いありません。

(左から)萩原みのり、古川琴音、穂志もえか、中田青渚が4人のヒロインを演じる
(左から)萩原みのり、古川琴音、穂志もえか、中田青渚が4人のヒロインを演じる[c]『街の上で』 フィルムパートナーズ

そして出てくる女の子たち全員が、実際に会ったら腰を抜かすほどの美人なのに、そんな女優さんたちを美人のままに、しかし映画のなかではその辺の女の子に思わせるマジック。これまた、いつまででも観ていられます。
自分が25歳若く、彼らのなかに混ざれたらすごくいいなと、うらやましいなと、偏屈ぶりを忘れてすっかりほんわかしてる自分がいました。
そして見終えた時、悔しいことにその願いがかなわないと思いだした私は、さらに悔しいけど、「君がきっと好きな映画があるよ」と、20歳の息子にLINEしたのでした。

文/松久淳


■松久淳プロフィール
新刊「走る奴なんて馬鹿だと思ってた」(山と渓谷社)が発売中。旧作「天国の本屋」が、13年ぶりに再販決定。近刊に「きっと嫌われてしまうのに」(双葉社)、「もういっかい彼女」(小学館)などがある。

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