林遣都「がむしゃらに、ギラついて」イメージ覆す挑戦心に迫る

インタビュー

林遣都「がむしゃらに、ギラついて」イメージ覆す挑戦心に迫る

「どんどんイメージを覆していきたい」。『バッテリー』(07)でのデビューからちょうど10年経った今、俳優・林遣都は力強く語る。そんな彼が次に飛び込んだのが、乃南アサのベストセラー小説を映画化した『しゃぼん玉』(3月4日公開)。親の愛を知らず、通り魔や強盗傷害を繰り返す無軌道な男という難役に、一体どのように向き合ったのか。そして、彼の原動力とは?

強盗傷害を繰り返すなか、誤って人を刺してしまった主人公・伊豆見が、逃亡途中に出会った老婆・スマ(市原悦子)や村の人々との出会いを通して、人生の大きな決断をしていく姿を描く本作。行き場のない野良犬のような表情をした伊豆見が変化していく様を、林がみずみずしく演じきっている。

「お話を頂いて原作を読んだところ、やりがいしか感じなかった」と林。「乃南さんも現場に来ていたのですが、その時に『本当に難しい役だと思う』とおっしゃってくださって。僕も乃南さんからの『一筋縄ではいかない』というメッセージを受け取り、大事に大事に演じました。狂気的な部分のある青年が、温かい人に出会って心がきれいなる。ただそれだけの捉え方ではダメだと思った。もっともっと彼の切ない部分を見せなければいけないと思っていました」。乃南からの言葉もやる気に変えて、役に真摯に向き合った。

物語の舞台の中心となるのは、日本の三大秘境のひとつと言われる宮崎県の椎葉村。「僕はパッと現場に行って、パッとお芝居をできるタイプではない」と言い、「心身ともにボロボロになって村に行こうと思っていました」とクランクイン前から気持ちを作り、椎葉村に行った。

椎葉村では土地の空気をたっぷりと吸い込み、伊豆見に反映させていったと言う。「普段考えないようなことを考えさせてくれたり、普段は聞かないような鳥の声などに耳を傾けることができたり。三大秘境と言われるだけあって、椎葉村は何か人にきっかけを与えてくれるようなパワーを感じさせてくれる場所でした。実際に地元の方とも触れ合うこともできて、その土地のご飯を食べたりすることで、僕自身すごく潤っていく感じがあって。それをそのまま、役に活かすことができたと思います」。

伊豆見の人生を変えるスマを演じた大女優・市原悦子との共演もかげがえのない時間となった。「役に没頭できるような環境を作って頂き、感謝の気持ちしかありません。僕が何をやっても、スマおばあちゃんの器の大きさと優しさで包み込んでくれるようでした。市原さんのお芝居にはいつも圧倒されて、感動しっぱなし。ご飯を食べていたり、近所のおばあちゃんたちと会話をして笑っている姿など、何気ない瞬間でも人を感動させられるというのは、本当にすごいこと。素敵でした」。

難役を演じきり、「撮影期間は約2週間。短い期間でもあり、とても難しい役でしたが、すごく入り込めたという自負があります」と手応えを語る。穏やかな雰囲気のある彼のイメージを覆す役となったが、「あまり新境地という考え方はしていません。いつも新境地と言えば、新境地ですから。監督にもいろいろな方がいますし、まったく違う監督に出会うことで毎回、新しい自分が引き出されていると思う。役者って面白いですよね」と俳優業への意欲がみなぎる。

俳優デビューから10年、26歳となった。「がむしゃらにやって来て、悔しい思いをしたこともあります。でも撮影が好きで、たまらなく楽しくて、作品が出来上がった時がたまらなくうれしいという思いはずっと変わっていません。だからこそ、必要とされたいと思っています」と役者業への愛を確実なものとしたからこそ、「必要とされたい。誰にも負けたくない」と闘志を燃やす。

「『こういった役が合うんじゃないか』というお話より、どこか『これやってみろよ』と言われるようなお仕事が来るとワクワクするんです。僕のイメージではないような役をいただくためにも、どんどんイメージを覆していかないといけないと思っています。ずっとギラついていたいですね」。そうふわりと微笑む林遣都が、とてつもなく頼もしく感じた。【取材・文/成田おり枝】

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