『モアナ』が王道のディズニープリンセスではない理由とは?

インタビュー

『モアナ』が王道のディズニープリンセスではない理由とは?

困難に立ち向かい、自分自身の力で運命を切り開くたくましきヒロイン、モアナ。ディズニーアニメ最新作『モアナと伝説の海』(3月10日公開)は、まさに『アナと雪の女王』(13)の系譜を行くいまの時代にふさわしいプリンセスムービーだ。本作を手がけたのは『リトル・マーメイド』(89)や『アラジン』(92)のジョン・マスカー監督とロン・クレメンツ監督。来日した2人に、本作の製作秘話を聞いた。

数々の伝説が残る島で生まれ育った16歳の美しい少女・モアナが、世界を1つにつなぐ大海原へ冒険の旅に出る。モアナをサポートするのが、半神半人の英雄マウイだ。ロン・クレメンツ監督は「モアナとマウイの2人の間でロマンスは描かれないんです」と解説。

「言ってみればプリンセスのいないプリンセスムービーと言うべきでしょうか。今回描いたのは『トゥルー・グリット』(10)で描かれているような関係性です。若くてある目的をもって突き進む女の子が、ちょっと落ち目の年上の男性と組んで、ある物事を成し遂げていく。だからラブストーリーや王子さまという要素を抜いた作品になっていて、プリンセスであるモアナ自身が自分の世界を救うためにヒーローとなる物語なんです」。

ジョン・マスカー監督もマウイについてはスーパーヒーロー的なビジュアルを意識したと言う。「マウイは元々釣り針で島を引き上げられるような半神半人だから、肉体にも現実以上のものを出したいという思いがありました。いつもより自由に作り上げていったから、この昨品に合ったマウイになったんじゃないかなと」。

『アナ雪』もそうだが、今回も敢えて王道のディズニープリンセスを描かなかった。「今回企画を練り上げていく時、全くロマンスというものは考えなかったです。それよりも冒険を通しての成長を描きたいと思いました。言ってみればルーク・スカイウォーカーの旅のように『世界の運命は彼女(モアナ)の手にかかっている』というような物語なので。海に選ばれたモアナであっても、彼女自身が果たしてそれに対応できる能力をもっているのか?という物語。私たちにとってもチャレンジではあったけど、ぜひとも作ってみたいと思いました」。

まるで『アラジン』のじゅうたんのように、美しい海が意思をもったキャラクターのように生き生きと動く。海の描写については、両監督が島々を視察に行った時にそう描きたいと心から思ったそうだ。「フィジーで漁師や船乗りの方々と海に出た時、彼らが水面を軽くなでながら『海にはやさしく話しかけなければいけないし、敬意をはらわければいけない。海は力をもっていて、粗末に扱うと災いとして戻ってくる』とおっしゃっていて。視察から戻ってきた時、2人共海をキャラクターとして描きたいと思ったんです」。

「元々、そういうパントマイム的な描写はアニメーションに打ってつけだ」と言うジョン・マスカー監督。「確かに『アラジン』の魔法のじゅうたんもそうですね。今回はまず手描きのアニメーションを用いて波の動きで“イエス”“ノー”や驚きなどをいかに表現するかを探り、最終的に本物の海や泡の動きを見ながらCGアニメーションに落とし込んでいったのでユニークなものになったと思います。アニメーションにおけるパントマイムは言葉を発しないキャラクターを描く時に最適です。昔の作品『ダンボ』(41)や『白雪姫』(37)もそういうキャラクターが親しまれていました」。

ロン・クレメンツ監督は、ディズニー映画の名アニメーターだったオリー・ジョンストンとのエピソードを明かしてくれた。「私たちは監督になる前はアニメーターとして仕事をしていましたので、以前オリー・ジョンストンから『練習として、小麦粉の袋を使って感情を表現できるようにしなさい』と言われたことがあります。袋1つでうれしさや幸福感、恐怖心などを表現するようにということでした。ちょうど『リトル・マーメイド』のヒロイン、アリエルは話せないという設定だったので、それをどういうふうに表現するかを楽しみました」。

フォトセッション時には、ニワトリのヘイヘイと仔ブタのプアを手に取りポージングしてくれたおふたり。実は、ヘイヘイはジョン・マスカー監督、プアはロン・クレメンツ監督をモデルにして作ったキャラクターだそうで、確かにそっくり。ほのぼのとしたおふたりの人柄がにじみ出ていてほっこりした。【取材・文/山崎伸子】

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