本当は怖い…!?「ピーターラビット」の原作ってどんな物語だった?

コラム

本当は怖い…!?「ピーターラビット」の原作ってどんな物語だった?

絵本が基になっているとは思えない、強盗映画のようなテイストが話題を集めている『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』(公開中)。ウサギたちの愛らしい姿が観客の心を鷲づかみにした前作『ピーターラビット』(18)も、キャラクターの性格や設定が原作と大きく異なっていると話題を集めた。この記事では、そんな本シリーズの原作がいったいどのようなものだったのかを確かめていきたい。

【写真を見る】映画版と大きく異なる!「ピーターラビット」の原作がどんな話か知っている?
【写真を見る】映画版と大きく異なる!「ピーターラビット」の原作がどんな話か知っている?

ピーターが“もふワル”!?原作とかけ離れた映画版

イギリスの湖水地方、いとこのベンジャミンと3人の妹たちと暮らすピーターラビット。天敵のマクレガーさんが庭で育てる野菜を頻繁にくすねる一方、彼らの味方をしてくれるビアを慕いながら暮らしていた。ある日、マクレガーさんが心臓発作で亡くなり、浮かれていたピーターたちだったがロンドンから甥っ子のトーマス(ドーナル・グリーソン)が転居。マクレガーさんに負けず劣らずの嫌な男であるうえに、ビアとも接近するトーマス。そんな彼をこの地から追い出そうとピーターは戦いを仕掛けていく。

上記のあらすじのように、ウサギたちとその地に引っ越してきた神経質な男が、一人の女性を巡り激しい戦いを繰り広げる『ピーターラビット』は、“マッドマックス 怒りの湖水地方”と例えられるなど、アクションムービーとも言えるようなザ・エンタメ作品になっていた。

トーマスやビアは映画オリジナルのキャラクターで、ロンドンの街は原作に登場せず、そもそもマクレガーさんも原作では死んでいない…など相違点を挙げればキリがなく、ピーターの性格も映画では自分から攻撃を仕掛けるなど、とにかく好戦的なうえに悪知恵が働き、人間を翻弄するヤンチャな描かれ方をされていた。

牧歌的かと思いきやブラックなエピソードも多数

それでは原作はどのようなものだったのか?ビアトリクス・ポターが、知人の息子に宛てた絵手紙を原作とし、1902年に出版されたのが「ピーターラビットのおはなし」として知られる「The Tale of Peter Rabbit」。その後「グロースターの仕たて屋」、「ベンジャミン バニーのおはなし」など、各キャラクターを主人公とした物語が、シリーズ全24作にわたって紡がれていった。

悪知恵の働くキャラクターとして描かれる映画版ピーター。“もふワル”というキャッチコピーも
悪知恵の働くキャラクターとして描かれる映画版ピーター。“もふワル”というキャッチコピーも

動物の視点で語られるがゆえにシンプルな話も多く、たとえば「ピーターラビットのおはなし」は、マクレガーさんの農場に忍び込んだピーターが出口がわからなくなり、右往左往しながらも命からがらなんとか逃げ出すという庭だけで話が完結するミニマムなストーリー。ピーターのキャラクターも原作ではいたずらっ子程度で、時には泣いてしまうことや、落ち込んで無気力になることもあるようなあくまで未熟な子ウサギだった。

牧歌的でありながらも、皮肉やユーモアを交えたストーリーが展開されるどこか恐ろしいエピソードも多く、ピーターのお父さんがマクレガーさんの奥さんによって肉のパイにされてしまったのは有名な話。さらに「あひるのジマイマのおはなし」では、ジマイマが産んだ卵を自ら孵そうとするも、紆余曲折あり犬に卵を食べられてしまったり、「ひげのサムエルのおはなし」では、子猫のトムが大きなじいさんネズミのサムエルの家に迷い込むと、体にバターを塗られ、ねり粉で包まれ、猫団子にされそうになってしまったり…と自然界ならでは(?)の“食”エピソードも多く語られている。

あひるが悪いキツネに騙されてしまい…とダークなテイストも原作の特徴の一つだ
あひるが悪いキツネに騙されてしまい…とダークなテイストも原作の特徴の一つだ

また映画に通じるようなやりすぎな描写も実は多く、「ベンジャミン バニーのおはなし」では猫に捕まってしまったベンジャミンとピーターをベンジャミンのお父さんが助ける際に、猫を懲らしめるために温室の中へ蹴り込み、毛をむしりとってしまうから驚きだ。「こわいわるいうさぎのおはなし」では、いいウサギのニンジンを奪ったわるいウサギが猟師に撃たれて、ニンジンと尻尾だけがそこには残っていた…という挿絵が描かれ、読者に恐怖を覚えさせた。

読者に衝撃を与えた挿絵
読者に衝撃を与えた挿絵

原作へのリスペクトが見られる点も

原作が極めてシンプルなだけに、オリジナルのストーリーが映画では語られているが、「ピーターラビット」のブラックなやりすぎイズムはしっかり継承。ピーターのお父さんがパイにされてしまったという設定が受け継がれ、またバトルシーンでもあわや命を奪いかねない容赦ない暴力が描かれている。

可愛い見た目とは裏腹に、バイオレンスなアクションも披露している「ピーターラビット」シリーズ
可愛い見た目とは裏腹に、バイオレンスなアクションも披露している「ピーターラビット」シリーズ

それ以外にも、原作へのリスペクトが感じられるようなシーンも多数存在。名前からもわかるようにビアはビアトリクス・ポターをモデルにしていたり(映画ではウサギたちの生活を絵本にしている)、ピーターがカカシにされてしまった自分の服を取り返す一幕や、トーマスから逃げる道中の鉢植えのくだりなど、細かなシーンにオマージュが盛り込まれている。

カカシにされたピーターの服もしっかりと登場していた1作目
カカシにされたピーターの服もしっかりと登場していた1作目

また『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』は、ビアが自主出版する「ピーターラビット」の絵本が話題になり、大手出版社が声をかけたことを機に、ピーターがグレてしまい、大騒動が起こるという物語が繰り広げられるのだが、このビアに関するプロット自体がポターの人生をなぞったもの。ビアが出版の際に続編について聞かれると「様々な動物を主人公にして、あと23巻作る」というセリフを放つ、メタな視点も組み込まれていたりと、原作とはかけ離れつつも、しっかりと「ビーターラビット」への愛を落とし込んだ内容となっているのだ。

『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』ではグロスターの街並みが登場する
『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』ではグロスターの街並みが登場する

また物語の舞台がグロスターで、仕立て屋が物語に絡んでくるという点で「グロースターの仕たて屋」へのリスペクトを感じさせるなど、今作もストーリーはあくまでオリジナルだが、その随所に原作のテイストが盛り込まれている。オリジナルと映画はあくまで別物であるが、それでもかわいらしいウサギたちの姿や美しいイギリスの風景からは「ピーターラビット」らしさを感じられるはずだ。

文/サンクレイオ翼

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