M.ナイト・シャマラン最新作『オールド』、アイディアの秘密は“黒澤映画”にあった!
新作を発表するたびに世界中を驚嘆させてきたスリラー映画の名手M.ナイト・シャマラン監督が、“時間”をテーマにした最新作『オールド』(8月27日公開)。「失敗している余裕はなかった。文字通り、ビーチで過ごすための余裕が1日もなかったのです」と、世界中で新型コロナウイルスが猛威をふるうなかで行われた撮影を振り返るシャマラン監督は、本作を演出するうえで、日本映画を代表する巨匠・黒澤明監督の作品を参考にしたことを告白した。
バカンスを過ごすために訪れた美しいビーチで、突如として不可解な現象に見舞われる家族が味わう恐怖とサバイバルを描く本作。“時間”が異常なスピードで加速し、身体がどんどんと老いていくなかで謎を解かなければ脱出できない。そんな緊迫した状況を描くためにシャマラン監督は、いかにして“ビーチ”という開放的なロケーションを閉鎖的に見せることができるかを考えたという。
そこで参考にしたのは、黒澤監督の演出方法だ。「黒澤監督の『羅生門』や『乱』を観て、屋外での撮影においても形式的な動作や構成をされていたことに興味を持ちました」と明かすシャマラン監督は、「本作では真正面ではなく角度を付けた撮影をしたいとイメージしていました。ただ、どちらの作品も角度をつけた撮影はしていなかった。本作ではカメラの動きを加え、角度を付けようと思ったのです」と語る。
このアプローチによって、前代未聞のビーチを舞台にした“密室劇”が完成する。“世界のクロサワ”として、世界中で数え切れないほど多くの映画人や映画作品に絶大な影響を与えてきた黒澤監督のクリエイティビティは、現代にも脈々と受け継がれているようだ。
さらに、「みんながパニックに陥っている様子を見ることができる。脱出しようとしているが、脱出するためのドアがない。観ている人もこの窒息しそうな苦しさを感じることと思います。美しかった景色が、圧迫感ある危険な雰囲気を出してゆき、初めは美しく見えた水も、死を連想させるものにしか見えなくなる。安全と思っていたものもゆっくり危険に変えることが、この作品で目標としていることです」と、本作におけるスリラー演出へのこだわりを熱弁。
これまで幽霊譚からヒーロー劇、SFやサイコスリラーなど、ありとあらゆるタイプのスリラー映画を生みだしてきたシャマラン監督の手腕が発揮された本作。いち早く劇場に足を運び、登場人物たちと一緒に謎解きに挑んでほしい。
文/久保田 和馬