【今週の☆☆☆】観る者の心を浄化する『ムーンライト・シャドウ』やシリーズ最強の豪華キャスト『ソウ』など、週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、週末に観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今週は、人気スリラーシリーズの驚がくの“新章”、吉本ばななの短編小説を小松菜奈主演で映画化したラブストーリー、福島県に実在する映画館を舞台に描く、“嘘“から始まる愛すべき物語の、バラエティに富んだ3本!
小松菜奈の多彩なアップの表情に心奪われる…『ムーンライト・シャドウ』(公開中)
吉本ばななの初期の名作短編を、小松菜奈の主演で映画化したヒーリング・ラブストーリー。さつき(小松)と等(『his』などの宮沢氷魚)は、鈴の音に導かれるように長い橋の下に広がる河原で出会い、恋におちる。ふたりは、等の弟・柊とその恋人・ゆみこも交えて楽しい日々を過ごすが、ある日、等とゆみこが突然事故で死んで…。タイトルは、4人の会話に出てくる「満月の夜の終わりに死者ともう一度会えるかもしれない」という不思議な“月影現象”のこと。本作は残されたさつきと柊がどうやって悲しい現実と向き合い、再生していくのかを、その“月影現象”をクライマックスに映し出していく。等と過ごしたかけがえのない時間を振り返りながら、しっかり前を向くさつきを体現した小松菜奈の多彩なアップの表情に心奪われる。シーンごとに変わる彼女の可愛いファッション、4人が自然体で楽しく遊ぶゲーム、そして物語を象徴する音、水、光を巧みに取り入れた美しい映像や音楽には、メガホンをとったマレーシア出身の俊英エドモンド・ヨウ(『Malu 夢路』)の美意識とセンスがくっきり。果たして、さつきの前に等はもう一度現れるのか?観る者の心も浄化するクライマックスでは、頬を伝う優しい涙がポジティブな気持ちに変わっているに違いない。(ライター・イソガイマサト)
苛烈な恐怖描写はもちろん、強化されたドラマにも注目…『スパイラル:ソウ オールリセット』(公開中)
凝った殺人トラップと、強烈なバイオレンスで支持を受けたスリラー「ソウ」シリーズの新章。今は亡き殺人鬼ジグソウの手口に酷似した手口で、警官が次々と殺された。相棒を亡くした刑事ジークは新任の若い刑事とともに捜査に当たり、やがて衝撃の事実に行き当たる!地下鉄構内で舌を縛られた男が残忍に処刑されるオープニングからして苛烈。目を覆う恐怖描写は健在だが、何よりの注目点はドラマが強化されたこと。シリーズの大ファンを自認するクリス・ロックが主演とともに製作を兼任し、ジークの苦悩の物語にこだわりを投影。彼の志向に共鳴した演技派サミュエル・L・ジャクソンも出演し、シリーズ最強の豪華キャストが実現した。これは必見!(ライター・有馬楽)
“生きるっきゃないっしょ”と感じさせる、ユーモアと力強さ…『浜の朝日の嘘つきどもと』(公開中)
福島県・南相馬の閉鎖が決まった映画館「朝日座」に、茂木莉子(もぎりこ)と名乗る正体不明の女性が、いきなり“立て直す”と乗り込んで来る。物語は、なぜ莉子が朝日座に現れたのかという謎の解明―過去の出来事と、現在―彼女の奮闘と朝日座の行方が、交互に紡がれていく。
『百万円と苦虫女』『ロマンスドール』などのタナダユキによる、オリジナル脚本・監督作。3人の主要キャラが、まず最高。高畑充希が好演する、いかにもタナダ作品らしい“ぶっきら棒なヒロイン・莉子”の不機嫌顔と毒舌口調を孕む可笑しさ!とんでもない妙味で大久保佳代子が演じるのは、莉子の恩師で超絶なダメンズ好き。朝日座の支配人に、落語家の柳家喬太郎。3人がしゃあしゃあと嘘を吐き、過酷な運命でも飄々と生きる風情、その人間臭さや濃くなる関係性にクスクス笑いと憧れが宿る。そこには熱い映画愛と、互いを受け入れる優しさと思いやりに溢れている。同時に、南相馬(=東北)が内包する寂寥や痛みが、そこはかとなく流れる。それでも“生きるっきゃないっしょ”と感じさせる、ユーモアと力強さに背中を押される。(ライター・折田千鶴子)
週末に映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!なお、緊急事態宣言下にある都道府県の劇場の一部では引き続き臨時休業を案内している。各劇場の状況を確認のうえ、足を運んでほしい。
構成/サンクレイオ翼