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タイの俊英ナワポン・タムロンラタナリット、PFF2021初の国際オンライントークに登場「特集が組まれるなんて夢のよう!」

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タイの俊英ナワポン・タムロンラタナリット、PFF2021初の国際オンライントークに登場「特集が組まれるなんて夢のよう!」

「第43回ぴあフィルムフェスティバル2021」が、9月25日(日)まで国立映画アーカイブにて開催中。特集「ナワポン・タムロンラタナリット監督~タイからの新しい風~」がスタートし、そのトップを飾るナワポン監督の長編デビュー作『36のシーン』(12)が上映された。上映後には、タイのバンコクからナワポン監督がオンライントークに参加。本イベントは、PFF初の国際オンライントークとなった。

【写真を見る】バンコクからオンライントークに参加したナワポン・タムロンラタナリット監督
【写真を見る】バンコクからオンライントークに参加したナワポン・タムロンラタナリット監督

本作は、それまで短編映画で各種の賞を受賞していたナワポン監督が「長編映画を創りたい!」という想いを止められず走り出した自主制作映画であり念願のデビュー作。国内外で話題となった本作は、2012年釜山国際映画祭ニューカレンツ部門最高賞を受賞、日本では2014年に東京国際映画祭で上映された。物語は、ロケーション・ハンティング係の女性と美術担当の男性――映画スタッフの男女の恋の行方が、ワンシーン・ワンショットによる36の場面で綴られる。

長編デビュー作『36 のシーン』 (12)
長編デビュー作『36 のシーン』 (12)[c]Very Sad Pictures

上映後のオンライントークに登場したナワポン監督は、本作を制作した10年前を振り返り「あの頃は、記憶を記録することにとても興味がありました。10年経った今、改めて作品を見返すと、過去から見えるものがあると感じました」とコメント。過去を描くことが多いため、過去にこだわっているとか、現在が幸せじゃないと思われがちと前置きしながら、「僕が過去からいろいろなことを学びがちなだけで、いま、とても幸せです」と笑顔を浮かべ説明する場面もあった。

『フリーランス』(15)
『フリーランス』(15)

“突然の死”が描かれることも多いが、なにかモチーフがあるのかという質問に「実体験からヒントを得た表現ではありません。“死”そのものよりも“変化”を意味しています。僕自身、場所や人の変化にとても敏感なので」とテーマの描き方を解説した。

身振り手振りで映画作りへのこだわりを解説するナワポン監督
身振り手振りで映画作りへのこだわりを解説するナワポン監督

この日のオンライントークでは、観客からの様々な質問に回答。撮影前に役者にどのようなリクエストをするのかという質問に「役者の即興の演技にはとても興味があります。自分らしさを演技に出してほしいという気持ちもありますが、一番大事にしてほしいのは脚本の構造を理解することです。オーディションをしてキャスティングする段階で、ある程度のスキルも理解しています。正しい選択(キャスティング)をしたと考えているからこそ、準備についてはあまりリクエストしません」と演出方法を明かした。

記憶によって幸せになること、記憶が刃物となり人を傷つけることもあるとし「記憶が人に与えるさまざまな影響に興味があります」と強調したナワポン監督。長編デビュー10年を迎えたいま、「記憶や過去など、これまで描いてきたテーマはもう十分描き切ったと感じています。作品を撮るたびに、自分自身成長し、テーマへの疑問を解決していきました。ありがたいことに、映画を撮る機会が多く、作品を作るごとに成長していると実感しています。37歳になったいま、新しい疑問も生まれてきています」と明かし、次回作で描く新たなテーマ、監督としての新たなステージへの自信をのぞかせた。

『マリー・イズ・ハッピー』(13)
『マリー・イズ・ハッピー』(13)

セリフのリズムが美しいというファンのコメントに「編集をしている時も、監督をしている時も、画面よりも音を聞くことに集中しています」というナワポン監督。演技のワークショップでチェックするのは「俳優たちのしゃべる速さやトーン」だと答えていた。他言語での映画制作に興味があるとしながらも「ネイティブじゃないから、例えば“えー!”という感嘆の度合いが理解できないと思います。でも、チャレンジングなことは好きだし興味もあるので、課題は多そうだけど、いつかやってみたいです」と意欲を見せていた。

生まれ変わっても映画監督の道を選ぶかどうかを問われると「一番得意なことなので、多分、監督になると思います」とキッパリ。現在、アートエキジビションや本の制作にも携わっていることに触れ「映画に限らず、ストーリーを語る仕事をすると思います」と補足した。また、コロナ禍では次回作の準備のため、脚本作りに追われているそう。「コメディ要素の入った作品になると思います」と予告する場面もあった。

「日本の本屋さん巡りが大好き!」だそう
「日本の本屋さん巡りが大好き!」だそう

ナワポン監督の背後に映り込んだミニポスターが、浅野忠信主演作『地球で最後のふたり』(03)であることに触れ、「僕が若いころ、一番影響を受けた映画です」と笑顔を浮かべていた。今回はオンラインでの参加となったが、次回、来日が叶った際には「本屋巡りをしたいです!」と語ったナワポン監督。お気に入りの牛丼チェーン「東京チカラめし」も訪れたいとし、「タイに支店を持ちたいくらい大好きなんです」と力説し、会場の笑いを誘っていた。

ナワポン監督が自ら企画&制作した特集上映のオリジナルポスター。全作品のキャラクターが登場している
ナワポン監督が自ら企画&制作した特集上映のオリジナルポスター。全作品のキャラクターが登場している

コロナ禍でタイの映画館は閉館中だという。ナワポン監督は「コロナが収束して、映画館が再開したとき、観客が戻ってくるかどうか、今、すごく興味があります。映画制作そのものは止まっていないし、映画を撮っていた監督がNetflixなどストリーミング配信用のドラマ制作に進出したりもしています。こういった新しい動きから生まれることで、様々な内容の作品が観られる環境ができあがることはいいことだとポジティブに捉えています」と笑顔を浮かべた。最後に「映画祭で自分の特集が組まれるなんて想像もしていなかったです。感謝しています。ぜひ、この機会に僕の作品に触れてみてください」とアピールし、トークイベントは終了した。

取材・文/タナカシノブ

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