傑作の裏にこの男あり!才能を支えるもう一人の天才、ジョナサン・ノーランを知っているか?
人の記憶に潜入する捜査官がとある謎を追ううちに陰謀に巻き込まれていく…という近未来を舞台にしたSF大作『レミニセンス』(公開中)。トリッキーな設定がユニークな本作を、製作として支えているのがジョナサン・ノーランだ。
ジョナサン・ノーランという名前を初めて聞いたという人でも察しがつくように、彼は『ダークナイト』3部作や『TENET テネット』(20)、『インセプション』(10)など、数々のヒット作を世に送りだしてきた、2000年代以降の映画界を代表する監督クリストファー・ノーランの弟。偉大な兄の影に隠れがちだったジョナサンに、ここではスポットを当てていきたい。
兄クリストファーの出世作のアイデアは弟発だった!?
少年時代には黒澤明作品や千葉真一の出演作を見て育つなど、兄と同様に映画少年だったジョナサン。彼はクリストファーが大学在学中に手がけた短編『ドゥードゥルバグ』(97)や、長編デビュー作『フォロイング』(98)といった作品では、カメラ、照明まわりの便利屋的存在のグリップという役職でカメラを回した兄をサポートし、映画の現場に足を踏み入れていく。
そして、兄弟のその後を大きく変えることになった出世作『メメント』(00)。妻が殺される現場を目撃してしまったショックから記憶を10分間しか保てなくなった男が犯人を探す様子を、時系列を入れ替えながら描いたこの作品にジョナサンは原案、共同脚本として名を連ねている。
本作は、大学の講義で学んだ前向性健忘という症状をヒントにジョナサンが書き上げた短編小説が基になっており、記憶喪失の男が妻の復讐をするというアイデアを気に入ったクリストファーが映画のための脚本に。アカデミー賞脚本賞にノミネートされるなど大きな話題を呼び、クリストファーが大きく飛躍するきっかけとなった本作。ジョナサンのアイデアがなければ、クリストファーのいまの活躍もなかったかもしれないのだ。
その後、ヒュー・ジャックマンとクリスチャン・ベールの主演で、2人のマジシャンの因縁を描いた『プレステージ』(06)でも、クリストファーと共に脚本を担当すると、バットマンを主人公とした『ダークナイト』(08)、『ダークナイト ライジング』(12)、宇宙を舞台に家族愛を描いた『インターステラー』(14)でも共同脚本に名を連ね、クリストファーのブレーン的存在として数々の傑作を共に作り上げてきた。
兄の元を離れ、妻とのコンビでドラマ&映画で存在感を発揮!
クリストファーと映画を作り続けてきたジョナサンは、2011年に妻リサ・ジョイと共に製作会社Kilter Filmsを設立すると、ドラマにも進出。2011〜16年まで放送された「パーソン・オブ・インタレスト 犯罪予知ユニット」では、原案、製作総指揮、脚本、一部エピソードの監督を務め、ドラマをヒットに導いてみせる。
2016年からは、ハイテクに支えられた体験型テーマパークを舞台にする1973年の同名映画をドラマ化した「ウエストワールド」に着手。妻リサに加え、「パーソン・オブ・インタレスト 犯罪予知ユニット」で出会ったJ・J・エイブラムスらと共に製作総指揮に名を連ねると、パイロット版をはじめ、監督&妻との共同脚本により数々の重要エピソードを手がけ、高い評価を獲得してきた。
そして妻とのコンビで新たに取り組んだのが、リサが監督・脚本を、ジョナサンが製作を担当している『レミニセンス』だ。本作は、妊娠中に創作意欲を掻き立てられたリサが脚本を書き上げた作品。「ウエストワールド」でもキーとなっている“記憶”をテーマとしたSFであり、ノーラン家お得意の時間軸を錯綜させた作りになっている。
都市が海に沈んだ近未来、記憶に潜入するエージェントのニック(ヒュー・ジャックマン)は、検察から瀕死で見つかった新興勢力ギャングの男の記憶に入り、その正体を確かめるという依頼を受けることに。彼の記憶の中で見つけた謎の女性メイ(レベッカ・ファーガソン)を追うニックだが、予想もしなかった陰謀へと巻き込まれてしまう…。
リサの脚本を読んだ際に、その完成度の高さに「思わず息を呑んだ」というジョナサンは、リサに自身でメガホンを握るよう長らく薦めていたのだそう。自分のビジョンを次々と形にしていくリサの行動力に、目を見張ったと妻を賞賛しているジョナサン。そもそもオリジナリティが溢れる脚本ゆえに、明確なビジョンを持つリサでなければ形にすることすら難しかったかもと考えると、ジョナサンのリサへの猛プッシュこそが本作の重要な分岐点だったと言えるかもしれない。
自らも類まれな才能を持ち、表に立つ場合もあるが、その一方で才能を周囲のサポートにも生かしているジョナサン・ノーラン。彼が多くの名作の誕生に一役買っている超重要人物であることは言うまでもない。
文/サンクレイオ翼