『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』ホラーを愛する期待の俊英、マイケル・チャベス監督にインタビュー
「アナベル」シリーズから『死霊館のシスター』へと発展し、その世界を拡張し続けている『死霊館』ユニバース。この人気ホラーの最新作にして、直系シリーズの第3弾『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』が、ついに公開された。悪魔に憑かれて殺人を犯した青年と、彼を救おうとする心霊研究家エドとロレインのウォーレン夫妻。彼らが体験した衝撃の実話をベースにして、悪魔と人間との壮絶な戦いを描いた本作は、全米ですでにスマッシュヒットを飛ばしており、世界興収は2億ドルを突破。人気の高さを改めて示した格好となった。
この注目作で、『死霊館』シリーズ前2作のジェームズ・ワンから監督の座を継いだのが、俊英マイケル・チャベス。ワンのプロデュースの下で監督を務めた『ラ・ヨローナ 泣く女』での恐怖演出が高く評価され、このフランチャイズへの大抜擢となった。長編映画2作目にして人気シリーズの最新作を手がけた彼は、どんなことを思いながら本作に取り組んだのか?
そもそも、『死霊館』ユニバースは、2013年の『死霊館』に始まり、生みの親ジェームズ・ワン監督の主導で発展を遂げてきたが、彼が『アクアマン』などの大作に関わるようになったことからプロデューサーにまわり、ホラー界の若い才能が監督として起用されるようになった。それでもワンは本作でプロデュースに加え、ストーリー原案を担当。「ジェームズはかなり深く関わってくれたよ。そもそもジェームズがいなければ僕のキャリアもなかった。僕は長いこと彼のファンだったし、『ラ・ヨローナ ~泣く女~』で彼と組み、友情を築けたことは、このうえなく刺激的な経験になった。大袈裟に言っているように聞こえるかもしれないけれど、実際素晴らしい人なんだ!ホラーのマスターなのに、すごく気さくだし、良いコラボレーションができているよ」とチャベスは語る。
『死霊館』シリーズは毎回、実話から題材を得ているが、今回も同様だ。1981年に米コネチカット州で起こった殺人事件。容疑者の青年は、悪魔に憑依されて殺人を犯したと法廷で主張。当然のように、この“悪魔憑き”の裁判は世間を騒然とさせた。映画では、この青年アーニーの主張が正しいことを証明しようと、ウォーレン夫妻が奔走を繰り広げる。「アーニーの主張が正しいかどうかは、僕も随分と考えたよ」とチャベスは振り返る。「監督するにあたり、悪魔の存在を信じるかどうかは脇に置いておくことができた。ただ脚本を渡された時にアーニー・ジョンソン事件の背景についても調べたけれど、実際に被害者が発生している事件を描くのだから、『僕はなにを信じるのか?どのような視点で描くのか?』ということについては随分考えた。正直、いまでも自問自答する。アーニーの恋人デビーは彼のことを信じていた。事件の目撃者でもあった彼女は、「アーニーは悪魔に囚われていた」と法廷で実際に証言しているんだ。デビーはのちにアーニーと結婚して夫婦生活を送り、実は先ごろ癌で亡くなられた。アーニーに最後まで添い遂げたんだよ。彼らに取材をしたけど、最後まで話を覆すことはなかったよ」
ラブストーリーの要素を含む本作には、主人公ウォーレン夫妻の絆の物語も息づく。チャベスは、それこそが『死霊館』シリーズの魅力ではないかと考えている。「本作で観客は、いままでに見たことのないウォーレン夫妻の姿を見ることになる。エドは実際に80年代に心臓発作を起こし、それがその後の生活に多いに影響を与えた。そういう夫妻の経てきた歴史を忠実に描いているんだ。彼らは理想的な夫婦の関係を築いていたわけで、それは正確に撮りたかったんだ」
シリーズの顔と言うべきウォーレン夫妻にふんするパトリック・ウィルソンとヴェラ・ファーミガとの仕事も、チャベスには新鮮な経験だったようだ。「毎日が驚きの連続だ。彼らは人としてもすばらしいし、2人の間で阿吽の呼吸ができあがっているんだよ。スクリーン上で素晴らしい友情を築き上げてきた2人だから、シリーズの撮影で再会するのはサマーキャンプのようなものだ(笑)。その喜びが周囲にも伝わり、明るい雰囲気になる、そんな現場だったよ」と、彼は回想する。
「おもしろいのは、そんな彼らも演技に対するアプローチはまったく異なること。ヴェラは現場に入る前に徹底的に準備をしてきて、万全の状態で“さあ、カメラを回して”という感じだ。逆に、パトリックは現場で細部にいたるまで監督と話し合う俳優だ。僕も彼と役について話し合ったけれど、とても熱心なので“僕は演出を間違えていないか?”と逆に不安になることもあった(笑)。そんな対照的な二人でも、お互いにリスペクトを抱いている。彼らは、素晴らしい化学反応を見せてくれたんだ」と称賛の声を惜しまない。
とはいえ、『死霊館』シリーズの本質はホラーだ。本作では、少年に対する悪魔祓いのシークエンスで幕を開けるが、少年の体のネジれなど想像を絶するこの場面からして恐怖感たっぷり。「下調べをするなかで、ウォーレン夫妻が残した録音音声を聞いたりした。それらを統合すると少年は実際に宙に浮いたらしい。リアルに『エクソシスト』だったんだけれど、それを映画で描いてしまっては、あからさまに『エクソシスト』のモノマネになってしまうので、止めようということになった。『エクソシスト』にオマージュを捧げた場面はあるけどね」と監督は振り返る。「スタント・スーパーバイザーが連れて来た曲芸師の女の子がいて、彼女に少年のスタントダブルを頼んだ。とにかく彼女は体がやわらかくて、奇妙な動きのパターンをいろいろと見せてくれた。そこで、これをそのまま使おうということになった。そう、少年の顔は後に合成してあるけれど、あの動き自体はCGIではなく完璧に実写だ」というから驚きだ。
クライマックスの超常現象の描写もスリリングで目が離せない。デビーに付き添われたアーニーがいる刑務所内と、ウォーレン夫妻が黒幕と対峙する地下室。それら2つのシークエンスが絡み合い、夜の闇と灯りの光が交錯する、インパクトの強い映像を築き上げた。「照明に関しては、僕なりに狙いがある」とチャベスは語る。「どの場面でも照明にはこだわるよ。音楽を映像に付けるような感覚で、照明を当てている。参考にしているのは、SHOTDECKというサイトで、そこには映画の様々なシーンの画像がストックされている。そこから、自分の映画に近い雰囲気のものを選び、ダイナミックな照明をどう活かすか考えるんだ」
『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』は、アメリカではシリーズで初めてR指定を受けることになった。それだけ描写が激しく、苛烈になっているということ。「限界まで行ってみよう、という気持ちは確かにあったね。一作目の『死霊館』が公開されたのは8年前で、当時はまだホラーはニッチな市場だったけれど、ヒットしたおかげでこのジャンルもいまやメインストリームだ。シリーズで、いまだかつてない恐怖と危険を描ことうとしたのだから、この指定も仕方ないと思うよ」子どものころからホラーを見続けてきたチャベスは、今後もこのジャンルを撮り続けたいと考えている。「僕はホラーが大好きだし、恐怖を体験できて、なおかつ時間を無駄にしない映画を観たいと思っている。ハイテンションでエキサイティングなものを作っていきたいね」と語る。その才腕を、まずは『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』で確認してほしい。
取材・文/相馬 学