ホラー映画を“1日”で作る方法とは?前代未聞の企画に挑んだ大畑創監督が明かす、撮影現場の奇々怪々

インタビュー

ホラー映画を“1日”で作る方法とは?前代未聞の企画に挑んだ大畑創監督が明かす、撮影現場の奇々怪々

「呪怨」シリーズや「恐怖の村」シリーズの清水崇監督が選考委員長を務める、日本初のホラー映画専門コンペティション「日本ホラー映画大賞」。11月30日(火)いっぱいに迫った応募締め切りまで、残すところあと1週間を切った。本コンペティションの応募要項では、「自主上映会で上映した作品、自主運営サイトで公開した作品、映画祭に出品を予定されている作品であっても、未発表かつ完全オリジナルのものであれば応募可能」とされているため、過去に制作された作品でも問題ないとのこと。今週末は応募を迷っているクリエイターたちにとって勝負の時となりそうだ。

一方、映画制作を目指す方々にとっても、“ホラー映画”をいざ自分で作るとなるとハードルの高さを感じて、尻込みしていた人も少なくないだろう。そんななか、今回の賞に合わせて実施されたのは「1日でホラー映画を作ってみよう」という前代未聞の挑戦企画。この企画に挑んだのは、『大拳銃』(09)でゆうばり国際ファンタスティック映画祭とぴあフィルムフェスティバルの審査員特別賞をダブル受賞し、『へんげ』(11)で商業映画デビュー、近年では「拝み屋怪談」シリーズを手掛けた大畑創監督。「最初に企画を聞かされた時は、なんて無茶振りをするんだと思いましたよ(笑)」と語る大畑監督にオンライン取材を敢行。はたして、1日での映画づくりとはどんなものなのか?いまからでも真似できるホラー映画の作り方を紹介していこう。


ニコニコ動画の生配信企画で短編『映画にころされる』を制作した大畑創監督
ニコニコ動画の生配信企画で短編『映画にころされる』を制作した大畑創監督

9月に「ニコニコ動画」で約10時間にわたって生配信された「1日でホラー映画を作ってみよう」。短編映画の制作風景を余すところなく記録し、配信中に作品を完成させる予定だったが、結果的にタイムオーバー。撮影自体は完了したものの10時間では作品の完成までは至らなかった。その後、編集作業を行ない完成したのが15分ほどの短編映画『映画にころされる』。映画の撮影現場で自殺者が出て、撮影を中断させないために警察に連絡をすることなく、死体を見張ることを命じられた新人スタッフが味わう恐怖体験を描いた物語だ。

「撮影の間は、とにかく時間内に終えることに専念しました」と、反省まじりに振り返った大畑監督は「まず言えることは、今回の僕のように、時間に追われながら撮るというやり方はあまりおすすめしません(笑)」と語りながらも、「今回の企画を通して僕自身も映画づくりというものについてもう一度ゼロから考える機会を与えられたような気がしました」と明かす。「自主制作をしていた頃から、いつも誰かにお願いしていた撮影(カメラマン)や美術部や制作部としての役割を自分自身でやったことは、とても新鮮でおもしろい経験になりました。映画づくりってこうやってやるものなんだなと改めて思い知らされた部分でもありましたし、一人で色々やってみることでより全体を俯瞰して見ることができたような気がします。おそらく映画を作ろうと動き始める人で、身近に撮影ができるカメラマンがいる人はそんなにいないと思います。でも可能であれば、できる人を見つけて手伝ってもらうのがいいと思います」と、アドバイスを送る。

当日の生配信のなかでも語っていたが、『映画にころされる』のストーリーは以前とあるベテランスタッフから聞かされた撮影現場の出来事から着想を得たという。「撮影隊がロケ場所に到着すると、すぐ近くに車が一台止まっていて、車内で煉炭自殺をしている人がいた。けれど撮影隊はどうしてもその日その場所で撮影をしなければいけない。なので通報をせずに最後まで撮りきったという話を聞いた時に、なんか嫌だなあ…と感じました。今回企画をいただいた時には、まだどんな話を撮るかは決めていませんでした。1週間くらい前になって、撮影場所が映画の撮影所に決まったので、映画スタッフが出る物語を考え始めたと時にこの話を思い出したのです」と、そうした日常のなかで聞いたり感じたりした、ちょっと嫌な話などがホラー映画の種になるようだ。

ホラー映画専門コンペ「日本ホラー映画大賞」は現在応募受付中!
ホラー映画専門コンペ「日本ホラー映画大賞」は現在応募受付中!

「映画の現場、特に商業映画と呼ばれる作品の現場では、絶対に撮影が止まることは許されないという、側から見たら狂ってると思われても仕方ないような空気が常にあるんです。誰かがミスをしたら、その人はとんでもない憎悪の目を向けられてしまう。その場にいる人たち全員をそういうモードにさせてしまうあたり、映画ってすごいと同時に怖いものだなとずっと思っていました。なのでこの短編では、そのような“映画に狂わされた人”の演技を大事にしようと心掛けながら撮影に臨みました」と、撮影現場特有の雰囲気を取り入れたと明かす。

さらに大畑は、自主映画から商業作品の世界に羽ばたいた先輩として、「日本ホラー映画大賞」に応募する人はもちろんのこと、映画づくりを志す若い世代に向けてこんな忠告をする。「日本ホラー映画大賞ではグランプリを獲れれば商業映画を撮るチャンスが与えられる。でもそれだけで終わりではないということは頭に入れておいてもらいたいです。1本商業映画を撮ったからといって、この先良い人生が送れると確約されたわけでもないですし、仮に現場で死人が出ても『カメラを止めるな!』と言ってくる人がいるかもしれませんね(笑)。映画づくりは楽しいことだけじゃないんだというメッセージも、今回の短編には込めています。でも、残念ながら、映画づくりはめちゃくちゃ楽しい(笑)。ホラー映画は、特に楽しい。まずはその楽しさに没頭し、映画に殺されない程度にスマートに、創作活動を続けてもらえたらと思います」。

そして「いわゆる“小中理論”に代表されるような、Jホラーの基礎に忠実な表現よりも、誰もみたことがない表現がされている作品が、今回の賞では求められていると思います。それはホラーに限らず、またジャンルを問わずいまの日本映画界全体に同じことが言えるのではないでしょうか。なのでグランプリにこだわらず、無邪気な表現を。なによりも自分がおもしろいと思えるものがあれば、それを追求していってもらえればと思っています」。

【写真を見る】大賞受賞者には商業映画デビューのチャンス!清水崇監督や堀未央奈が選考委員に
【写真を見る】大賞受賞者には商業映画デビューのチャンス!清水崇監督や堀未央奈が選考委員に

「日本ホラー映画大賞」の対象となるのは、すでに商業公開されたものを除く完全オリジナル作品。3分以上の実写映像作品、もしくは10秒以上のアニメーション映像作品で、広義のホラージャンルであればどのような作品でもOK。一次選考の段階からプロの映画プロデューサー、監督、脚本家らがすべて鑑賞し、本選の選考を務めるのは清水監督をはじめ、元乃木坂46の堀未央奈、映像クリエイターのFROGMAN、Base Ball Bearの小出祐介、映画ジャーナリストの宇野維正の5名。大賞以外にもさまざまな賞が用意されているので、残り数日となったいまからでも、ワンアイディアをもって“3分以上”か、“10秒以上”の映像作品制作にチャレンジしてみてはいかがだろうか。

文/久保田 和馬


■「日本ホラー映画大賞」開催概要

応募期間:2021年10月1日(金)10:00~2021年11月30日(火)23:59
応募資格:プロ・アマチュアを問わず、年齢、性別、国籍などの制限なく、どなたでもご応募いただけます
対象作品:
①実写映像作品 3分~90分程度の未発表・完全オリジナル新作
②アニメーション映像作品 10秒~30分程度の未発表・完全オリジナル新作
応募方法等:詳しくは下記公式サイトをご覧ください
公式サイト:http://movies.kadokawa.co.jp/japan-horror-fc/

受賞部門:令和の新しいホラー映像作家の発掘・育成を目指し、以下の賞を設けます
[大賞]
賞金…20万円
副賞…運営委員会製作による新作長編映画(応募作品のリメイク版または完全オリジナル作品)の監督をご担当いただきます

[アニメ部門賞]
ホラー・アニメーション分野への斬新なアプローチを観点に選考します
賞金…20万円

[審査員特別賞]
将来性を感じさせる作品に贈られます
賞金…15万円

[ニューホープ賞]
“オトナ”になる前の荒削りで、尖った、最新の感性とセンスを持つ原石に対して贈られます
賞金…10万円

[株式会社闇賞]
前例のないアプローチに果敢に挑み、新しいホラー体験を与える作品に贈られます
賞金…10万円

[オカルト部賞]
「配信動画で見たい!!短編作品」に贈られます
選考・配信は、心霊スポット探索・怪談を体当たりで取材するYouTubeチャンネル『オカルト部』
賞金…10万円

[MOVIE WALKER PRESS賞]
映画プラットフォームならではの視点で、観る者が怖さを「楽しめる」、映画ファンに広く愛される作品を選出いたします
賞金…10万円

[豆魚雷賞]
優れたキャラクターが登場する作品に贈られます
人物・怪物などのほか、造形物・アイテムなど、特徴を持ったイメージを含みます
賞金…10万円

運営委員会
【主催】株式会社KADOKAWA/株式会社ディー・エル・イー/株式会社闇
【協力】オカルト部/MOVIE WALKER PRESS/豆魚雷

【公式Twitter】 https://twitter.com/jp_horror_fc
【公式サイト】http://movies.kadokawa.co.jp/japan-horror-fc/
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