世界各地の映画祭を代表する重鎮たちが東京国際映画祭に集結!「映画界の未来」をテーマに白熱のディスカッション
現在開催されている第34回東京国際映画祭で10月31日、映画祭のさらなる飛躍に向けた新しい試みとして海外から著名な映画関係者を招く「ワールド・シネマ・カンファレンス」が開催。世界三大映画祭のカンヌ国際映画祭やベルリン国際映画祭をはじめ、世界各国の映画祭を代表する5名が来日を果たし「映画界の未来」をテーマにパネルディスカッションを行なった。
登壇したのはトライベッカ国際映画祭のアーティスティック・ディレクターを務めるフレデリック・ボワイエ、カンヌ国際映画祭の代表補佐と映画部門ディレクターのクリスチャン・ジュンヌ、ベルリン国際映画祭のアーティスティック・ディレクターを務めるカルロ・シャトリアン、プロデューサーでキュレーターのローナ・ティー、そして映画評論家で映画史家のジャン=ミシェル・フロドンの5名。
今年から東京国際映画祭のプログラミング・ディレクターを務める市山尚三がモデレーターを務め、最初に語られたのは、いまなお続くコロナ禍での各映画祭の状況。カンヌ国際映画祭では2020年の開催を見送り「カンヌ2020レーベル」として公式セレクションを発表し、2021年は例年よりも2か月遅い7月の開催に踏み切った。ベルリン国際映画祭ではオンラインも併用した2段階開催に踏み切るなど、開催タイミングの世界の状況に合わせ、それぞれが試行錯誤をしたことが明かされていく。
ベルリン国際映画祭やマカオ国際映画祭などでキュレーターを務めるティーは、「マカオはオンラインでの開催になり、制約もあってインパクトも小さくなりました」と振り返り、「ですがそこから学んだことは、映画祭が上映以外にどんなことをしているのかということ。映画祭は人と人とのつながりや、集まって同じ空間でエネルギーや情熱を共有することが大切で、映画を通してコミュニケーションするというマインドセット自体が変わりました。これは映画祭の果たす役割にも関わってくるものです」とそれぞれの映画祭が大きな変革の時を迎えていることを窺わせた。
また、ディスカッションの後半にはコロナ禍の映画興行で頻繁に取り沙汰されてきたオンライン上映という存在が、映画祭にどのような影響を与えているかについて議論が加熱。ボワイエは「劇場で上映したいが、映画を人々に届けるためにはオンラインという可能性も常にある」と選択肢としての必要性を語り、フロドンもコロナ禍前から世界的に映画がグローバル化していたことに触れながら「映画は危機をくぐり抜けて進化してきた」と肯定的な意見を表明。
対してカルロスは「あまり楽観的にはなれない」と述べると、ヨーロッパの映画祭の多くが公金によって賄われていることを例に挙げながら「民間のスポンサーは減り、オンラインのプラットフォームが競合になる。アドバンテージもあるが大きく不利になる部分もある」と懸念を表明。
そしてジュンヌは「映画祭自体が今後どうなっていくかがテーマになる。オンラインとどうやってバランスを取っていくか。こうした危機の時にこそ意見を出し合い、映画祭を行う意義はなにかと考えていく必要があると思います」と語るなど、いまだ正解の見えない問いに各々が真摯に向き合いながら、ポストコロナにおける映画祭のあり方についてのディスカッションは、約1時間半ノンストップで続けられた。
取材・文/久保田 和馬