湯浅政明監督アニメ『犬王』に込めた想い「どの人にも良き理解者がいるといいな」

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湯浅政明監督アニメ『犬王』に込めた想い「どの人にも良き理解者がいるといいな」

第34回東京国際映画祭内にて、アニメ『犬王』のジャパンプレミアが東京・TOHOシネマズ日比谷で行われ、上映後には湯浅政明監督が登壇するティーチインイベントが開催された。

【写真を見る】キャラクター原案を務めた松本大洋との会話を振り返る湯浅政明監督
【写真を見る】キャラクター原案を務めた松本大洋との会話を振り返る湯浅政明監督[c]2021 "INU-OH" Film Partners

湯浅監督最新作『犬王』は、松本大洋がキャラクター原案、野木亜紀子が脚本を手掛けるミュージカルアニメ。古川日出男の小説「平家物語 犬王の巻」を原作に、室町時代に活躍した実在の能楽師、犬王と、盲目の琵琶法師、友魚の友情が描かれる。9月には第78回ヴェネチア国際映画祭でオリゾンティ・コンペティション部門に選出された。ワールドプレミアには湯浅監督も登壇し、上映後にはQ&Aに応じた。本作は、第37回ワルシャワ映画祭スペシャル・スクリーニング部門、第16回ブカレスト国際アニメーション映画祭長編コンペティション部門への正式出品をはじめ、海外の映画祭に続々と正式出品されている。日本では2022年初夏に全国公開予定。

出来上がったばかりのポスタービジュアルについて湯浅監督は「僕は、松本さんの絵が大好きなので、基本的には“お好きなものを描いてください”とお願いしました」とニッコリ。松本から「これでどうでしょう?」と提出されたビジュアルを見て「それでいいと思います」という感じでスムーズに出来上がったことを明かしていた。


原作で興味を持ったポイントは、「犬王」という能楽のスターがいて、今でいうポップスターのようだったと説明され、ロックミュージシャンの写真が添えてあることに「おもしろい」と感じたそう。「歴史の話は、今残っているものから想像することしかできないため、(描かれる)世界が狭くなってしまいます。もっと広いイメージがあっていい、あるべきだと思っていたので、こんな風に考えるのは非常におもしろく感じました」と伝えた。

犬王と友魚、2人のメインキャラクターについて「2人とも(置かれた状況、立場から)上にいくのが難しい時代に生きているのに、どうにかして上がっていこうとするところに魅力を感じました」と説明。犬王がいろいろな姿に変わっていくのところにおもしろさを感じたという湯浅監督は「宿命を背負うと暗くなりがちだけど、彼はすごく明るい。なぜそんなに明るくいられるのかと興味を持ったし、とても魅力的に見えました。そして、自分もそうなりたいと思いました」と犬王の魅力を語り、「今の時代に犬王のようなキャラクターを見れば(みんなも)勇気をもらえるのでは?」と期待したことも明かしていた。

メインキャラクター”犬王”のすべてが詰まったビジュアルと解説
メインキャラクター”犬王”のすべてが詰まったビジュアルと解説[c]2021 "INU-OH" Film Partners

映画には犬王と友魚を知ってもらう使命や、過去の人を掘り下げようという目的もあるが湯浅監督は「歴史には残っていなくても、犬王と友魚のようにお互いを分かっている人がいたということが伝わるといいなと思いました。生きていれば、この人、なんか嫌だなと思うことだってあります。人を理解することは難しいけれど、理解できればいいなと思うし、どの人にも良き理解者がいたほうがいいなというテーマも描いています」と作品に込めた想いを語った。

急にロックを歌い出すという急展開の演出は「冒険したところ」と微笑んだ湯浅監督。歌い出した理由も表現していたが「言い過ぎ、説明しすぎ」とも感じていたそう。そんなとき脚本の野木から「一気に(急展開へ)いっちゃってから納得して貰えばいい」というアドバイスがあったという。「そういう方法もあるのか。だったら細かい説明はしないで思い切った展開を作ってみよう」と気持ちを切り替えた経緯に触れた。

お茶目な表情で笑いを誘う場面もあった
お茶目な表情で笑いを誘う場面もあった[c]2021 "INU-OH" Film Partners

アフレコについて湯浅監督は「犬王役のアヴちゃんが歌唱法も含めて、音楽パートは積極的に担当してくれました。アヴちゃんがどんどん犬王になっていく感じがしたし、こちらもそうなってほしいという気持ちで作っていました」と振り返った。音楽が重要な要素となっている本作。「音楽は歌って踊って神様に見せるもので、興奮するところもある。僕が若い頃は、コンサートに行くと、立ちたい気分になり、立っていたけど、年を取るとみんなが立つのを待つようになりました(笑)。もっとみんなに踊ってほしいという気持ちがあります。試写を後ろから見ていて、なんでみんな動かないんだ! と思っていました」と感想を伝える場面もあった。

ジャパンプレミアの感想を訊かれると「やっと日本の皆さんに見ていただいたので、できれば、ひとりひとりに感想を訊きたいです。公開までまだ半年以上あるので、“いい感想”をできるだけ多くつぶやいていただき、盛り上げていけたらいいなと思っています」と呼びかけ、イベントを締めくくった。

取材・文/タナカシノブ


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