『漁港の肉子ちゃん』渡辺歩&『フラ・フラダンス』水島精二が初対面!“俳優が声優をやることのよさ”など意気投合
開催中の第34回東京国際映画祭「ジャパニーズ・アニメーション」部門で11月5日、日本のアニメーション監督たちはどのような意識で時代と向き合っているのかを掘り下げるトークショー「TIFF マスタークラス 2021年、主人公の背負うもの」が開催され、『漁港の肉子ちゃん』(21)の渡辺歩監督、『フラ・フラダンス』(12月3日公開)の水島精二総監督、アニメ評論家の藤津亮太が出席。この日が初対談となった渡辺監督と水島監督が、“俳優が声優をやることのよさ”や興行収入に対する考え方など、アニメ作りについて意気投合。「本当に楽しかった」と声を揃えた。
藤津いわく「(最新作において)キャラクターの心情や感情のひだがリアルな物語をアニメーションを使ってやろうとしている」ということから、トークイベント「TIFF マスタークラス 2021年、主人公の背負うもの」のゲストに渡辺監督と水島監督が迎えられた。ともに1966年生まれの日本を代表するアニメーション監督の2人だが、この日が初対面だという。お互いへのリスペクトを明かしながら、「自分よりもキャリアも年齢も上だと思っていた」と笑顔を見せ合っていた。
まずは主人公の成り立ちについて、トークが進められた。『漁港の肉子ちゃん』は明石家さんまが西加奈子の小説に惚れ込み、5年もの歳月をかけて企画、プロデュースした劇場アニメ映画。漁港の船に住むワケあり母娘の肉子ちゃんとキクコの秘密を描く。主人公キクコについて、渡辺監督は「読み解くまで時間がかかった」と告白。「キクコが成長していく期待値を持って、ドラマを描ければそこにヒントがあると思った。彼女がこれから成長していくだろうという予感を描くことを、自分の描きたいものにした」という。数々の劇場版「ドラえもん」シリーズにたずさわってきた渡辺監督だが、“ドラえもん”という世界観のなかでのび太の冒険を描くことと、“肉子”という世界観のなかでキクコを描くことには類似性もあり、「若干の親和性がありますね。『ドラえもん』が材料としてのヒントになったのは事実です」と明かしていた。
一方の『フラ・フラダンス』は福島県いわき市を舞台に、フラガールとなった主人公と仲間たちの絆と成長を描くオリジナルアニメ。東日本大震災の被災地を舞台にしたアニメーションを3本制作する、フジテレビのプロジェクト「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」の一つとなる。
水島監督は「(観客が)劇場を出る時に気持ちよく出られる作品。描かれているキャラクターや場所を大事に思えて、応援できるものにしたかった。中心人物となる5人のなかで、本作の主人公は自ら物語を引っ張るタイプではない。いろいろな出会いがあって、みんなで足並みを揃えていこうとした時に、ちょうどいい塩梅のキャラクターが真ん中にいて、みんなに愛してもらえるようなキャラクターになればこの作品はうまくいくと思った」と主人公の日羽(ひわ)はアンサンブルのセンターとしての役割を担っているコメント。脚本の吉田玲子と話し合いながらキャラクターを肉付けしていったが「一番ふわふわ、フラフラしているのが日羽」だといい、日羽の曖昧さが変化していく過程が物語の鍵になるという。
物語を膨らませていくうえでは、脚本の吉田の力量に驚くことばかりだったそう。水島監督は「僕のプロットの段階では、もっとコミカルな要素があってバタバタしていた。吉田さんがそこをきれいに、キャラクターを際立たせる形にしてくれた。行間がとてもすてき。イメージがどんどん湧いてくる脚本」と惚れ惚れ。
スパリゾートハワイアンズの復興という要素が本作の根底には流れており、施設内で奮闘し続けた人たちがいることがわかるシーンも盛り込まれている。水島監督は「震災をフィルムのなかにどれだけ入れ込むのかが、とても難しかった。でも吉田さんがその部分もすばらしいシーンとしてシナリオに入れてくれた」。さらに「(脚本にある)余白で演出のしがいがある。描き方を委ねてくれている部分もあり、すごくやりがいを感じた。キャラクターの温度感などを考えるのが楽しくなるような脚本。脚本を受け取った監督によって、描き方も変わるはず。なぜ吉田さんがみんなに求められるのかというと、この余白感。監督が受け取ったらうれしいものがある」と力を込めていた。
会場からの質問に答えるひと幕も。「アニメ映画の興行」についての考え方を聞かれると、渡辺監督は「数字が出ることも、とても大事」と言いつつ、「その作品が成立する形というものもある。それを壊してまで、数字を取りに行くことが大事なのかと思うところもある。数字のためにねじ曲げるようなものは作らないほうがいいんじゃないか」と語ると、水島監督も「ものすごく共感できる」としみじみ。
またキャスティングについてのトークでも、大いに意気投合した。『フラ・フラダンス』には、福原遥、美山加恋、富田望生、前田佳織里、陶山恵実里がメインキャラクターの声優として参加しているが、水島監督は「“俳優さんをいっぱい集めて”というやり方はやりたくなかった。ただ役に合っている方なら大歓迎」と俳優の声優起用について持論を展開。「自分が求めているお芝居をさらに膨らませてくれる人たちをオーディションで選んだ」とキャストたちに敬意を表し、日羽役の福原については「福原さんのちょっと自信なさげな声が、めちゃめちゃよかった」という。
『漁港の肉子ちゃん』には大竹しのぶやCocomiが参加しており、渡辺監督は「僕も水島監督と同じ考えだ」と話す。大竹の起用についても決してさんまのオーダーだったわけではないと強調し「ちゃんとハマったんです」とにっこり。
「大竹さんには、お仕事をお願いしたいと思っていた」と続けると、水島監督も「大竹さん、ぜひ一度やってみたい」と切望し、「僕ら監督って、もちろん声優さんのお芝居を信頼している。それと同時に俳優さんが持ち込む空気感ってものすごいと思っている。それが映画にプラスになると確信している。声優以外の人が(声優を)やることに対してアレルギーのように反応する方もいるけれど、監督が望んでやっているから」と笑顔を見せた。渡辺監督は「キャラクターににじり寄っていく作業、そのアプローチの仕方がすごい。監督は“作品のために”ということしか考えてないですから。それは声を大にして言いたい」とキッパリ。「福原さんは僕もご一緒させていただいたことがある。本当にあの方はいいですよね」と語っていた。
たっぷりとトークを繰り広げ、渡辺監督は「同じ場所で戦っている人がいるという心強さを感じた」、水島監督も「すごくシンパシーを感じた」と充実の表情を見せていた。
取材・文/成田 おり枝