吉田恵輔監督、TIFF上映『空白』のQ&Aで「気持ち良い質問ありがとう」と感謝
11月8日(月)まで開催中の第34回東京国際映画祭。Nippon Cinema Now部門では、古田新太主演作『空白』を含む吉田恵輔監督の特集上映が行われており、特集デーの最終日となる11月6日にはTOHOシネマズ シャンテにて、吉田監督によるQ&Aが実施された。
『空白』は、第43回日本アカデミー賞3冠を獲得した『新聞記者』(19)などのスターサンズ・河村光庸プロデューサーが企画し、『ヒメアノ~ル』(16)や『BLUE/ブルー』(21)などの吉田監督がオリジナル脚本で挑んだヒューマンサスペンス。中学生の娘を亡くした父親で、恐るべきモンスターと化してしまう添田充を古田新太が演じ、その添田に人生を握り潰されていくスーパーの店長・青柳を松坂桃李が演じる。
Q&Aでは、「実際に過去に、万引きした人が追い掛けられて交通事故にあったニュースがあったと思うので、この作品は現実の事件からインスパイアされたものだと思うのですが、どのような形で脚本を作りましたか」との質問が飛んだ。
すると吉田監督は「僕には唯一の友達というか、相方みたいなヤツがいて、その人ががこれを書く前くらいに亡くなってしまいまして、1年くらいずっとモヤモヤしていたんです。その時、震災などもそうですけど、突然人が亡くなると皆さんはどうやって折り合いをつけるんだろうなと思って。それで、そっか、折り合いをつけられない男の話を書いて折り合いをつけよう…と思いました」と、脚本を執筆した経緯を説明。
さらに「その脚本を書こうと思ったときに、20年くらい前に男の子が万引きして逃げて、警察に追われて踏切の事故で亡くなった出来事があったのですが、それがなぜか心に残っていたので。なぜかその2つがくっついて、この物語を書き始めました」とコメント。“言いたいこと”が普段からいろいろとあったそうで「書いていくうちに登場人物が増えて、世界が広がっていって。自分が普段から、世の中に対してねちっこく思っていたことが詰まっている作品になったと思う(笑)」と振り返っていた。
また、「青柳店長による痴漢のエピソードは、ミスリード的な挿話なのか、青柳店長の良くない部分を表した部分なのか、その意図は?」との質問が出ると、「この物語自体、割と“空白”になっている部分が多い。それを埋めるのはお客さんになってくるけれど、その埋め方を一方的な考えで埋めてしまうと見方が変わっていく作品」とし、「基本的に言うと、そこの部分は“分からない”ということで作っています。多分、青柳が真っ白な人だと思って見ると、添田がやってることがむちゃくちゃなので『許せないな』と嫌悪感を持って映画を観ていくことになると思うのですが、青柳がもし性的ないたずらをしていたり、それを隠しているのだとしたら、この映画をもう一度観たときに、添田に対して『もう少し突っ込んで吐かせろ』みたいな気持ちになるのではないかなと思います」と回答した。
そして、「世の中は答えが分からないことだらけで、それで考え方の違う者同士がぶつかって、分断を生んでいると思うんですけど。最近でも、コロナに対してワクチンを打つ・打たない派で論争が起きていて。答えがわからない者同士、考え方が違う者同士が『俺が正しい』と言い合っていることもある。こうしたことも、相手側の気持ちに立って考えたら、もう少し言い方が変わるのではないかなと思ったり。この物語でも、割と想像力を大事にして生きないと、世の中えらいことになるな、というのが大きなメッセージとしてありますね」と、時世になぞらえて解説し、「あの、言いたかったことなので、気持ち良い質問ありがとうございました!」と、“ナイス”な質問に笑顔を見せていた。
取材・文/平井あゆみ
※吉田恵輔の「吉」は“つちよし”が正式表記