罪を犯した者は無条件に“悪”なのか?有村架純と森田剛が熱演した感動作『前科者』を、より深く理解できる見どころを紹介!
「ビッグコミックオリジナル」で連載中の漫画を実写化し、有村架純が保護司を演じる映画『前科者』が1月28日(金)より公開。普段馴染みのない題材なだけに「保護司ってなに?」「どんな内容なの?」と気になるところだが、WOWOWオンデマンド、Amazon Prime Videoにて配信中のドラマ「前科者 -新米保護司・阿川佳代-」と合わせて観ることで、より深く「前科者」の物語を理解でき、映画への感動もひとしおとなる。ドラマでは、新米保護司の佳代が初めて接する前科者たちに戸惑う様子や、彼らに対しどんな思いを抱いているか、なぜ保護司になろうと思ったのかなど、映画につながる物語が描かれる。ここでは、映画『前科者』を最大限に楽しむために、ドラマの内容にも触れながら、作品の見どころや事前に知っておくべきポイントを紹介していく。
前科者を支援する“保護司”って?
まず“保護司”とは、罪を犯した“前科者”たちの更生、社会復帰を目指して彼らをサポートする国家公務員のこと。とても大変な仕事だが、なんと無報酬。公務員――しかも国家とあれば高給というイメージがあるが、ボランティアなんてこともあるのだ。金銭が介在しないからこそ、保護司の誠実さがひときわ輝くといってもいいかもしれない。そんな保護司は、お金と時間に余裕のある人がやる仕事と思われがちだが、佳代は普段コンビニで働いている。その合間に“保護観察対象者”となった前科者たちの住居や仕事の手配をしたり、彼らが考えていることを傾聴したりする。突如問題が起こった時は、店長の松山(宇野祥平)に頼み込んでコンビニから自転車で飛び出していくのだ。特殊な仕事に理解ある店長がいるからこそ、佳代は保護司としてやっていけるといっても過言ではない。
ドラマ版で描かれる、新米保護司・佳代と前科者たち
ドラマでは、佳代が研修を経て保護司になり、3人の前科者と順に向き合って行く姿を描いている。最初の対象者は斉藤みどり(石橋静河)。経営していたアクセサリーショップの従業員に激しい暴力を振るい、恐喝および傷害罪で懲役2年を経て仮釈放となった。2人目は、実の兄を殺害し6年の実刑判決を受けるも、刑期を半年残して仮釈放となった石川二朗(大東駿介)。対象者が殺人犯ということで、佳代にもいささか緊張が走る。3人目は覚醒剤取締法違反で執行猶予となった田村多実子(古川琴音)。自分の力だけでは人生がままならず自暴自棄になっていく田村を、佳代は最後まで見守ることができるのか…。
監督は『あゝ、荒野』(17)で数々の映画賞を受賞した岸善幸監督が、ドラマと映画ともに手掛けている。ドキュメンタリー作家としての顔を持つ岸監督だからこそ、前科者たちの描き方にはとてもリアリティーがある。石橋静河、大東駿介、古川琴音が、様々な理由から追い詰められて罪を犯し、そこから生き直そうとするも、多くの壁にぶち当たり苦悩する様子を迫真の演技で演じており、心が揺さぶられる。そんななかで、有村架純だけが未熟ながらも彼らと必死に向き合い、彼らの救いになっているのだ。
前科者は三者三様、犯罪の内容も、犯罪を起こすにいたった経緯も違う。保護司は、彼らが自ら語るまで、事件について聞こうとしてはいけない。保護観察官の高松(北村有起哉)に導かれながら、佳代はひたすら前科者たちに寄り添おうと努める。その結果、最初は心を開かなかった者たちが、徐々に本音を覗かせていく。それぞれが違う状況にあるが、共通しているのは、自分を責めてしまうこと。普段は穏やかな佳代が、彼らを励まそうと大きな声で喝を入れる場面は、佳代自身にも喝を入れているように見える。彼女にも大きなトラウマがあり、佳代が前科者たちに強い口調で語りかけるたび、彼女もまた自分の悩みを振り払っていくように感じるのだ。
まだ若い佳代が、なぜ保護司になろうと思ったのか。それは映画の主題のひとつになっている。一人暮らしの自宅に前科者を招き、手料理でもてなしながら彼らの話を聞く佳代。ドラマでは、保護司になりたての佳代が悩んだり失敗しながら成長する姿を映しだし、映画ではそんな佳代が成長した3年後の姿が描かれている。ドラマから見ておくことで、佳代の感情の流れがわかり、感動もひとしおである。
ドラマ版の魅力のひとつが、佳代とみどりの友情である。最初は保護司と対象者の関係で、ことあるごとに衝突していた2人。しかし、傍若無人に見えるが気のいいみどりは、やがて佳代とバディのような関係になっていく。本音を内に秘めがちな佳代と、あけすけでも繊細なみどりのバランスが最高だ。一見して自由奔放なみどりだが、幼いころからネグレクトを受け、母親との関係に大きな悩みを抱えていた。そんな彼女が佳代を通し、次第に母親と向き合っていく姿が涙を誘う。しかし映画ではそんな2人の間に亀裂が…。彼女たちの関係の変化にも、ぜひ注目してほしい。
保護司として奮闘する佳代の前に現れた、元殺人犯の前科者
今回の映画では、佳代が殺人罪の前科を持つ工藤誠(森田剛)の担当になるところから、物語が始まる。誠は真面目で順調な更生生活を送り、彼が社会復帰する日を楽しみにしていた佳代。しかし誠はある日忽然と姿を消し、ふたたび警察に追われる身に。そんな矢先に連続殺人事件が発生。捜査が進むにつれ、誠の秘密や、佳代が保護司という仕事を選んだ理由が明らかになっていく――。
ドラマ、映画ともに「前科者」が問いかけるのは「善悪とはなにか?」ということ。罪を犯した者は悪とされ、裁きを受けなくてはならない。しかし“前科者”たちには罪を犯してしまうまでの過程があり、その部分を知ってもなお、彼らが本当に悪だと言い切れるだろうか。そんな難しいテーマを扱いつつも、それを自分ごととして考えずにはいられない『前科者』。本作でなにを感じ、ひとりひとりがどう考えるのか。これこそが本作を鑑賞する意義ではないだろうか。
文/木俣冬