レディー・ガガが明かす、「グッチ」を揺るがした“稀代の悪女”への共感「彼女は、恋に落ちた一人の女性でした」
「パトリツィア・グッチにとって、“グッチ”とは生き残る術だったのだと思います。それまでの人生を通して自分が重要だったことが一度もなかった彼女が、初めて重要になる機会。だから愛する者のためならなんでもする、自分を向上させ、自分を重要な人物にし、これまで夢見てきたことすべてを保持しようとする。脱税容疑で警察の手入れが入った時、彼女は自宅を命懸けで守ろうとします。それは本作で彼女の輝かしさが最高潮に達した瞬間なのです」。
世界屈指のファッション・ハイブランド“GUCCI”の創業者一族の確執と、1995年に実際に起きた3代目社長マウリツィオ・グッチ殺害事件を描いたサラ・ゲイ・フォーデンの同名小説を、『最後の決闘裁判』(21)の巨匠リドリー・スコット監督が映画化した『ハウス・オブ・グッチ』(公開中)。本作で事件の首謀者であるパトリツィア・レッジャーニ・グッチ役を演じたレディー・ガガは、入念なリサーチによってたどり着いたパトリツィアの内面に迫っていく。
物語は1978年のイタリア・ミラノから始まる。父が営む運送業を手伝っていたパトリツィアは、友人の誘いで行ったパーティで、GUCCIの創業者の孫であるマウリツィオと出会う。すぐさま惹かれ合う2人だったが、マウリツィオの父ロドルフォはパトリツィアが財産目的であると怪しむ。やがてロドルフォの反対を押し切り結婚した2人は、GUCCIの実質上のトップであるロドルフォの兄アルドからブランドの仕事を託さる。そしてロドルフォの死を契機に、パトリツィアの行動は次第に支配的になっていくことに。
「パトリツィアのことを金目当ての女だとみなす人もいるかもしれません。でも私は、彼女はお金のためではなくマウリツィオへの愛があって結婚したのだと理解しました」とガガは断言する。「彼女はグッチ家に受け入れてほしいと強く思っていた。けれどマウリツィオの家族は皆、彼女を利用してマウリツィオに近付き、自分達の影響力を強めようとしていただけだったんです」と、グッチ一族という男性社会のなかで力を得ようとしていたパトリツィアに魅力を感じたことを明かす。「でも残念ながら、彼女は目的を果たせなかっただけでなく、最初の時点よりもさらに酷い状況にまで落ちていってしまうのです」。
ガガは世界的な歌姫としてその名を轟かせながら、映画初主演を務めた『アリー/スター誕生』(18)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされるなど、女優としても類稀なるセンスを見せつけた。彼女についてスコット監督も「恐ろしい才能を持った人物だ」と脱帽し、プロデューサー陣やジャレッド・レト、アル・パチーノといった共演者らもその表現力を絶賛している。はたしてガガは、どのようにしてこのパトリツィアという役柄にアプローチしていったのだろうか。
「まず、パトリツィアについてリサーチから始めました。彼女について書かれた文献を読み漁り、彼女自身が答えたインタビューや、彼女について語られた映像もたくさん見ました。ただ、自分なりのキャラクターを作っていきたいという思いがあったので、偏った見方がされたものは避けるようにしましたね」と、世間的には“稀代の悪女”として取り沙汰されたパトリツィアを、役作りのなかでニュートラルに見つめ直したことを明かす。
そして「彼女の人物像と、なぜこのような事件が起きたのかにずっと考えをめぐらせていき、いざ役に取り組むうえでは、自分がよりジャーナリストのようであるべきだという点を大切にしていきました。彼女が嘘をつく時、また嘘をついていない時はどんな様子なのか。結婚前の彼女はどんな人物だったのか。私にとって彼女は恋に落ちた一人の女性だった。マウリツィオを愛し、彼が家業で彼女に力を与えてくれることを愛し、だからこそ奪われた時にはおどろくべき行動に出たんです。この出来事が起きたのは、彼女があまりに傷ついたからなのだと思っていますし、私は彼女が過度な抑圧を受けていたのだと確信しています」。
現在35歳のガガは、劇中で22歳から49歳までおよそ30年にもおよぶ月日を演じ抜いた。さまざまな時代のパトリツィアの髪型を再現したウィッグが用意されるなど、衣装からヘアメイクに至るまで万全の準備を経て撮影が行われたそうだ。「自分自身を22歳の女性に見せることは馬鹿げていると思いますが…できると信じてくれたリドリー(・スコット監督)にまずはお礼を言っておきます(笑)。でもそれはすごく大変なことで、控室だったトレーラーでは年代別の写真が順番に貼られていて、私がどの瞬間にどういうルックスであるべきかを誰もが把握していました」。
「衣装を手掛けたジャンティ・イェーツと共に目指したのは、パトリツィアが決してグッチ一族と同じような煌びやかさには見えないようにすることでした。ファッションに物を言わせるのではなく、身体的な特徴で演技するように心がけました。若い頃のパトリツィアは家ネコのように、中盤ではキツネのように遊び心を持たせ、そして終盤ではヒョウのように魅惑的に惹きつけて狩りをする。この3種類の動物をイメージしながら、キャラクターを見出していきました」。
最後にガガは、80代を迎えてもなお精力的に活動し、常に価値観をアップデートし続けているスコット監督を讃えた。「彼は建築家のようなビジョンを持った方で、アプローチの仕方がとても芸術的。脚本の感情面を深く理解し、出演者が表現しようとしていることを導くことにも長けている。そして起伏の激しい展開でどのシーンも楽しめるように作ることができるんです。きっと彼のなかには、なによりも観客に映画を楽しんでもらいたいという思いがあるのでしょう」。
構成・文/久保田 和馬