「AND JUST LIKE THAT…」コスチュームデザイナーが語る、前作「SATC」からの変化と甦らせたスタイル
「『AJLT』では、ファンが愛した過去のスタイルを慎重に甦らせた」
「AJLT」では、50代半ばになったキャリー、ミランダ、シャーロットの姿が描かれる。出演はしていないが、海外にいるサマンサの影も感じられる。出会いと結婚、出産、子育て、キャリアの変化、身体の変化など、彼女たちが直面する問題は、ファッションにも変化をもたらす。ロジャースは、「3人のスタイルはプロトタイプのようなもの。大きな変更の余地はないし、する必要もないと考えていました」と語る。そのなかでも、弁護士から学生になり、シーズンを通じて変化を遂げたキャラクターとしてミランダを挙げる。「新しいシリーズを立ち上げる上でのキーワードは、"モダン化"だったような気がします。このドラマの登場人物たちは、あまりにもアイコン化されすぎていたので。そして私自身がそうですが、歳をとるに連れて自分に似合うものがわかってきて、挑戦をしなくなるものでしょう。でも、ミランダは1話ごとに変化していき、髪の色も変わります。シャーロットは洗練されたアッパー・イースト・サイドの住人として、キャリーは気まぐれで実験的なニューヨーカーのスタイルを崩さず、ミランダは学生になったことで少しリラックスしたスタイルにしました」。
キャリーのスタイルを象徴するようなアイコンの"チュチュ"は、2022年らしいスタイリングで甦る。レインボーカラーのセーターとチュチュを合わせたスタイルは、ロジャースとパーカー、そして監督、脚本のマイケル・パトリック・キングの三者で相談をしたなかで出てきた"モダン化"だったという。ロジャースは、「新しい着こなしによって、コスチュームの意味合いが変わった良い例ですね。(第4話のデリに行くシーンで)キャリーが着る衣装には2つのオプションがありました。クローゼットから昔の服を出して着るか、前日の夜に遊びに行った服装そのままか。そこで、クローゼットの中を覗いたら、ウェディングドレスの下からクリノリン(スカートを膨らませる装置)が吊されているのが見えました。Tシャツかスウェットと合わせようと言ったような気がします。私たちはみんな、このような、ノスタルジックな瞬間を欲していました」と語る。
そして、前シリーズでキャリーが着用した印象的な衣装は、パーカーが個人的に保管しているものも多いのだそうだ。「サラが、アーカイブにアクセスすることを許可してくれたので、私はそこに行って今シーズンに甦らせるものを選び抜きました。ファンの方々が愛した過去のすばらしいスタイルに失礼のないように、慎重に。このドラマのファンにとって、ワードローブやアクセサリーは懐かしい友人のようなものだからです。例えば、プロポーズとウェディングのシーンのブルーのマノロ・ブラニクの靴や、Rogerのベルトなどは、しばらく会っていなかった懐かしい友人に再会したい、と思って。新しいシリーズでも、その"友人"がリアルに活躍する様子をお見せしたかった。前のシリーズからの継続性があって、ファンにとっては、イースターエッグを見つけるようなものですから」。パーカーは今作の衣装も個人的に保管しているという。「いつか、サラのキュレーションで、美術館での展示ができそう。レンタルで返却しないといけない衣装やアクセサリーもたくさんあるけれど、3人の女優は気に入った衣装を買い取ることができました。それらはすべて、またお呼びがかかるのか、それとも眠り続けるのか。衣装部が保管するのではなく、彼女たちのクローゼットで待っている状況です」。
「SATC」が提示してみせた、素足で履くマノロ・ブラニクや、高級メゾンのトップスに古着のデニムを合わせるようなスタイルは、スタイリストが借りてきた既製服を着るだけだったドラマの衣装の概念を大きく変えた。ロジャースがコスチューム・デザイナーを務めた「AJLT」では、2021年のキャリーのウォークイン・クローゼットに並ぶ靴やドレスに、それぞれ思い出が宿っていることに再度気づく。これこそがドラマが築いてきた歴史で、衣服が小道具を超え、視聴者に没入感を与える。ファッションの魔法こそが、「SATC」を唯一無二のドラマシリーズにしている理由だろう。
文/平井伊都子