身の毛もよだつサーチライトのホラー作品『フレッシュ』。ミミ・ケイブ監督&主演のデイジー・エドガー・ジョーンズにインタビュー
アプリで恋人を探すのが定説になった現在、ノア(デイジー・エドガー・ジョーンズ)がスーパーマーケットの生鮮食品売り場で出会ったスティーブ(セバスチャン・スタン)は、イケメンの美容外科医で振る舞いもスマートな100点満点の男性だったが…。今年のサンダンス映画祭のミッドナイト部門で上映されたサーチライト・ピクチャーズの『フレッシュ』は、深夜に映画を観ていた観客を震え上がらせた。
ギリアン・ジェイコブスとリチャード・マッデンが出演する、Netflixの『DJにフォーリンラブ』(18)の脚本を務めたローリン・カーンによる脚本が、プロデューサーのアダム・マッケイを通じて新鋭のミミ・ケイヴ監督の手に渡り、この“新鮮な”ホラームービーの企画がスタートした。ケイブ監督は、『ドント・ルック・アップ』(21)を監督し、プロデューサーとして『メディア王〜華麗なる一族〜』(18〜)などを手がけるアダム・マッケイを「飛び抜けたセンスの持ち主」と認め、彼がハリウッドに与える影響について、「一つのジャンルだけでなく、あらゆる分野からおもしろいものを見つけてくる天才です。それと同時に、ほかの監督をプロジェクトに誘い、機会を提供することを楽しんでいるようにも見えました。すばらしいことですよね」と話す。
同様に、主演のデイジー・エドガー・ジョーンズも、評価の高いドラマシリーズ『ふつうの人々』(20)の出演を経て、新しいプロジェクトを探している時にこの脚本に出会ったという。デイジーは「なにより、若い監督と一緒に作品を作ることができたのが嬉しいです。アイデアの段階から、ミミ(・ケイブ監督)が提案するビジュアル・イメージは独特でした。『フレッシュ』は紛れもなくミミの作品で、観た人はきっと彼女のスタイルに魅せられると思います。今後も彼女のような新しい才能と一緒に仕事をして、まだ演じたことのない新しいキャラクター像を見つけることが夢なんです」と語る。
ミミ・ケイヴ監督は、大学で映画制作とダンスを学び、ミュージックビデオやコマーシャルビデオ、ショートフィルムを多数監督してきた。そこから一歩先に進むために、かつて同じ製作会社に属し旧知の仲だったヒロ・ムライが手がける『アトランタ』(16〜)の撮影現場で、シャドーイング(現場で仕事を見て実践的に学ぶトレーニング)をしたのだそうだ。
「ミュージックビデオやコマーシャルの監督から、ドラマや映画監督として飛躍するのは本当に大変なことなんです。でも、ヒロはそれを成し遂げました。テレビシリーズの場合、シャドーイングは仕事のプロセスを学ぶうえで大きな役割を果たします。ヒロはとても親切で、快く撮影現場に招き入れてくれました。その経験によって、私は監督として独り立ちする大きな自信を得ることができたんです。ずっと、彼が作る作品のファンでもあったのだけれど」
同様に『フレッシュ』を作るうえで欠かせなかったのが、撮影監督のパヴェウ・ポゴジェルスキの存在。ポゴジェルスキはアリ・アスター監督の『ミッドサマー』(19)、『ヘレディタリー/継承』(18)で撮影監督を手掛けている。この2作品が大好きだったと言うデイジー・エドガー・ジョーンズは、「彼が撮影監督だと聞いて、興奮しました。彼のカメラは、キャラクターのひとりのようだから。最初は一般的な撮影から始まるけれど、ストーリーが進むにつれてカメラがだんだんと圧迫的になり、不穏なアングルに変わっていきます。そして、レンズの使い方を変えて居心地の悪さを表します。その撮影方法は本当にカッコいいと思うし、だから彼が撮影を手がけた作品が好きなんだと再確認しました」と、惜しみない賛辞を送る。
ラブコメの典型のような出会いを果たしたノアとスティーブが小旅行に出かけるところから、物語が転がり始める。携帯が圏外の別荘で、ノアはスティーブの手料理を味わうことになる。デイジーは、「映画やドラマでは、役者は食事を食べる直前にセリフを言って、実際に食べないことが多いですよね。このシーンでのノアはとても落ち着いていて、自分から話すより聞き手に回って状況を掌握しようとしています。でも実は頭の中では様々な思いを巡らせ、パニックになっていることを悟られないようにしている。脚本で読んだ時からこのシーンをどう撮影するのか気になっていたのですが、実はセットにはシェフが常駐していて、彼の目の前で食事をしながら微妙な表情の演技をしなくてはいけなかったんです」と、緊迫したシーン撮影の舞台裏を教えてくれた。そして、以前は視聴者としてホラーやスリラー映画を観るのが得意ではなく、指の隙間から観るようなタイプだったが、実際に映画を撮影して舞台裏を知ると、安心して映画の世界に没頭できるようになったと明かす。
『フレッシュ』は、英国出身のデイジー・エドガー・ジョーンズにとって、初めてのアメリカ作品。アメリカ英語の言い回しとアクセントに相当苦労したが、これからもあらゆるジャンルの作品に出演し、演技の幅を広げていきたいと抱負を語っていた。「撮影に入っていない時は、いつも本を読んでいる」と、『ふつうの人々』のマリアンとコネルのような趣味を持つ。最近読んだ本に『レイラの最後の10分38秒』を挙げてくれた。
「本当はいつでも本を読んでいたいんだけど、作品に入っている時にほかのものを読んでしまうと、取り組んでいる役がぼやけてしまうような気がして、なかなか読めません。なので、撮影と撮影の合間は存分に読書に勤しむことができるのです。最近読んだ、エリフ・シャファクの『レイラの最後の10分38秒』は、とても美しい小説。死についての物語なので悪趣味に聞こえるかもしれないけれど、本当に希望に満ちています。異なる文化において死がどのような受け取られ方をしているのか、そして人生における友情について描いています。そして、『ノーマル・ピープル』と同じ作者の『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』も。サリー・ルーニーは本当に最高の作家だと思います」
取材・文/平井伊都子