『マリー・ミー』では歌姫を好演!メディアを駆使する表現者ジェニファー・ロペスの敏腕プロデュース力
女優、歌手、ファッションデザイナーと多方面でマルチに活躍するスーパーセレブリティのジェニファー・ロペス。そんな彼女の最新出演作『マリー・ミー』(公開中)は、世界的な歌姫と平凡に暮らす数学教師が織りなすロマンティック・ラブストーリーだ。
ボビー・クロスビーによる同名グラフィックノベルを原作とする本作で、自身を彷彿させるポップスターに扮したロペスは、主演と共に製作も兼任している。ジェニファー・ロペスは、『ハスラーズ』(19)でも物語のキーマンを演じながらもプロデューサーとして作品を世界的ヒットに導いた。そこで今回は、持ち前の美貌や才能を最大限に生かし、ハリウッドに君臨し続けるロペスの卓越したプロデュース力について紹介したい。
自身の製作会社ニューヨリカン・プロダクションズを設立
ロペスの映画プロデューサーとしてのキャリアは2001年、製作会社ニューヨリカン・プロダクションズの設立から始まる。
自身のコンサートのドキュメンタリーを手始めに、同性婚カップルと養子たちの姿を通して現代の家族の絆を描いた「フォスター家の事情」シリーズや、ロペス初主演のドラマシリーズとなるレイ・リオッタ共演のクライムサスペンス「シェイズ・オブ・ブルー ブルックリン警察」などのドラマのほか、リアリティショーを制作。
映画においては、当時の夫で双子たちの父親でもあるサルサ系ラテンシンガーのマーク・アンソニーを主演に、実在するサルサ歌手、エクトル・ラボーの生涯を描いた伝記『エル・カンタンテ』(06)、さらにロブ・コーエン監督によるサイコサスペンス『ジェニファー・ロペス 戦慄の誘惑』(15)、経歴詐称をきっかけに大企業で働くことになった女性の奮闘を追うNetflixオリジナル『セカンド・アクト』(18)などを次々と世に送り出し、そのいずれでもロペスは主要人物を演じた。
それら製作&出演作の中でもひときわ高く評価されたのが、前述のローリーン・スカファリア監督作『ハスラーズ』だ。リーマンショックを発端に、ストリッパーたちがウォール街のエグゼクティブに詐欺をしかける実話をベースとする本作。ロペスは人気ストリッパーのラモーナに扮し、見事な脚線美と華麗なるポールダンスを披露して喝さいを浴びた。その妖艶な美しさとステージ上でこそひときわ輝きを増すカリスマ性、なおかつ詐欺集団を率いるリーダーとしての姉御っぷりは、まさにロペスの真骨頂。ステージ衣装の上に毛皮を羽織り、屋上でタバコをくゆらせるシーンでのラモーナの唯一無二の存在感には、誰しも心奪われることだろう。
ロペスは1969年、ニューヨークブロンクスで生まれた。プロダクション名に掲げた“ニューヨリカン”とは、ニューヨークで育ったプエルトリコ系アメリカ人のこと。このワードは彼女のアイデンティティの軸であると同時に、“J.Loワールド”を形成する上でのコンセプト(または矜持とも言えるかもしれない)となっているように思う。
これまでのプロデュース作品を振り返ってみると、彼女が製作する作品には“自身のルーツとしてのプエルトリコ”、“人間が持つ欲望&弱さの容認”、“(血縁に限らない)Familyとしての連帯”、“女性(または弱い立場にいる者)の反逆”、“LGBTQの肯定”などがテーマとして描かれることが多い。
話は若干横道にそれるが、長年LGBTQコミュニティの支援を行ってきたロペスは、2020年にLGBTQの若者の自殺防止に取り組む非営利団体「The Trevor Project」が主導したドキュメンタリー『Draw with Me』に出演。彼女の姉の子供(※彼女は性別を意味しない“nibling:甥または姪”というワードを使用)でトランスジェンダーのブレンドンを主演に、“家族へのカミングアウトの旅”と“自己表現としてのアート”をテーマに描いた。そして自身のインスタグラムで、ブランドンへの愛と作品の意義を語り、5分弱のクリップをシェアしている。