ホアキン・フェニックスが見つめる、“大人”のあり方「僕たちには子どもの未来を守る責任がある」
『ジョーカー』(19)のホアキン・フェニックスが、アカデミー賞主演男優賞を受賞後、最初の出演作に選んだのが、マイク・ミルズ監督が手掛けた『カモン カモン』(4月22日公開)だ。これまでリドリー・スコットやポール・トーマス・アンダーソンら名だたる巨匠監督から、スパイク・ジョーンズのような野心的な監督まで、様々な映画作家とタッグを組んできたフェニックスは「映画の出演を決める際に、監督がどんな作品を作ってきたかということは、それほど大事ではない」と断言する。
「大事なことは、監督と会ってみて僕が好きになれる人かどうか。マイクはまず脚本を送ってくれた。いまになって振り返ってみても、この『カモン カモン』という物語には共感できる瞬間や感情がたくさん散りばめられていて、すごく好きな脚本だ。彼に会ってみたいと思った。そして実際に会って話をして、彼となら一緒にクリエイティブなことができると感じました」と、ミルズ監督との運命的な出会いを振り返った。
本作はミルズ監督が自身の子育て体験から着想を得て生まれた、一人の男と一人の子どもの“親密さ”を描く物語。アメリカ中を回って子どもたちにインタビューをしているラジオジャーナリストのジョニーは、妹から頼まれて9歳の甥ジェシーの面倒を見るためロサンゼルスへと渡る。好奇心旺盛なジェシーに様々な疑問を投げかけられ、少々困惑気味のジョニー。しかしジェシーはジョニーの仕事や録音機材に興味を示し、二人は徐々に距離を縮めていく。やがて仕事の都合でニューヨークに戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れていくことを決める。
フェニックスは「僕たち大人には子どもの未来に対して責任があるということを描いている」と、本作の持つテーマ性を語る。「伯父というのは友だちのような存在です。けれども、たとえ親でなくても、子どもに残す世界やとるべき行動について責任を持たなくてはならない。また子どもを守ることを通して、人間としてより好奇心を持ちオープンになることができる。そういう考えにさせてくれるこの映画は、非常に興味深い作品であると感じています」。
その言葉の通り、物語の中核を担うのはフェニックス演じるジョニーと、ウディ・ノーマン演じるジェシーの関係性だ。2009年に生まれたノーマンは、地元イギリスで子役俳優としてテレビドラマを中心に活躍。『エジソンズ・ゲーム』(17)でベネディクト・カンバーバッチの息子役を演じて映画初出演を飾り、これが4本目の映画出演となる。「共演してすぐに彼の知能の高さがわかったし、同時にとても繊細で思慮深い俳優であることにもおどろかされた」と、フェニックスは若き才能を手放しで絶賛する。
「オーディションでは彼は脚本に書かれていないことをアドリブで演じ、僕もマイクも衝撃を受けた。ウディはジェシーの体験していることを、僕らでは到底理解し得なかった部分を本当に理解しきっていたんだ。そういうものこそ、演じるうえで共演者から得たいものです」と振り返る。そしてミルズ監督と掲げた、“自然でリアルに見える”ことを目指し、“自然な演技をしている”ようには見せないという目標を叶えるうえで、ノーマンが手本になったことを明かす。
「なにが本物で、それをどのように捉えればいいのか。常にウディが僕の目の前で提示してくれました。つまり彼は僕のガイド役を務めてくれたのです。これまでの作品では、主役を演じる時には自分がすべてを背負わなければと思っていました。けれどこの映画ではそうではなかった。ウディのやることをしっかりと見て、しっかりと聞き、そして彼のやったことに反応する。すごく新鮮でおもしろい体験でした」と、互いに刺激を与えながら作品を作り上げていったことを明かすフェニックス。劇中では2人の絶妙な掛け合いに大いに注目してほしい。
構成・文/久保田 和馬