宮崎駿と大塚康生は「コナン&ジムシーにそっくり」!「未来少年コナン展」で知る躍動感の秘密

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宮崎駿と大塚康生は「コナン&ジムシーにそっくり」!「未来少年コナン展」で知る躍動感の秘密

三鷹の森ジブリ美術館の新企画展示「『未来少年コナン』展ー漫画映画の魅力にせまる!ー」の内覧会が5月27日に行われ、展示内容が公開された。「未来少年コナン」は、宮崎駿の初監督作品である連続テレビアニメーションシリーズ。当時、宮崎監督と一緒に仕事に励んでいたアニメーション監督の富沢信雄、アニメーターの友永和秀、元テレコム・アニメーションフィルム代表取締役の竹内孝次による座談会で語られた言葉を交えながら、躍動感あふれる本作の魅力や、展示の見どころを紹介する。

「『未来少年コナン』展ー漫画映画の魅力にせまる!ー」は、5月28日(土)〜2023年5月(予定)開催
「『未来少年コナン』展ー漫画映画の魅力にせまる!ー」は、5月28日(土)〜2023年5月(予定)開催[c]NIPPON ANIMATION CO., LTD [c]Museo d'Arte Ghibli [c]Studio Ghibli

1978年に当時37歳の宮崎が初監督を務め、NHK総合テレビで放送された本作。NHKがテレビ開局25周年を記念して製作した、NHK初のアニメーション番組だ。最終戦争によって荒廃した地球から、ようやく自然がよみがえってきた世界を舞台に、「のこされ島」に住む少年コナンが、島に流れ着いた少女ラナを助けるための大冒険に出かける姿を描く。今展示では、全26話のなかに描かれた“漫画映画の魅力”を、ストーリーや登場する機械類、創作過程で描かれた設定資料やイメージボードなどを用いながら紐解いていく。座談会の聞き手は、三鷹の森ジブリ美術館館長の安西香月が務めた。

(左から)安西香月、友永和秀、富沢信雄、竹内考次
(左から)安西香月、友永和秀、富沢信雄、竹内考次[c]NIPPON ANIMATION CO., LTD [c]Museo d'Arte Ghibli [c]Studio Ghibli

座談会参加者にとっても思い出深い作品のようで、「途中から参加させていただいた」という友永は、「それまではロボットものしかやったことがなかった。宮崎さんと大塚さんの作品を手伝って、アニメーションを勉強させていただきたかった」と宮崎監督、そしてキャラクターデザインを担当した大塚康生への敬意を告白。「血湧き肉躍る、エネルギッシュなキャラクターの動きや、荒唐無稽なアイデアだけれど、リアリティのある空間を取り入れた、説得力あふれる画面づくりに感激させられました。ただその分、難しかったです」と笑顔を見せた。

【写真を見る】宮崎駿監督の“頭のなか”がここに!貴重なイメージボードや、展示内容をたっぷり紹介
【写真を見る】宮崎駿監督の“頭のなか”がここに!貴重なイメージボードや、展示内容をたっぷり紹介[c]NIPPON ANIMATION CO., LTD [c]Museo d'Arte Ghibli [c]Studio Ghibli

「当時、原画を描いておりました」という富沢は、「『未来少年コナン』の前の年、『あらいぐまラスカル』の原画を描いていました。そのころ『宮崎さんが演出になって、作品をやるらしい』と聞いた。さらにシンエイ動画から作画監督として大塚さんがいらっしゃって、その脇でチラチラとおもしろそうなのをやっているなと思っていたんです」と興味津々だったそうだが、違う作品の担当にさせられそうになり、「『コナン』をやることができなければ辞めると、ごねました」とぶっちゃけ、周囲も爆笑。「ごねてよかった。自分のなかで仕事を覚える時期にぶち当たった作品で、あらゆることをこの作品で勉強させてもらった。この作品がなかったら、いまの自分はない」と並々ならぬ思い入れを明かしていた。


全力でラナを守るコナンの姿が、たくさんの人に勇気と感動を与えた
全力でラナを守るコナンの姿が、たくさんの人に勇気と感動を与えた[c]NIPPON ANIMATION CO., LTD [c]Museo d'Arte Ghibli [c]Studio Ghibli

青い空と海のもと、ひたすら明るく、信念に基づいて行動する主人公コナンをはじめとする魅力的なキャラクター勢が、躍動感たっぷりに描かれた本作。ギャグとユーモア、実写ではありえないアクションと共にドラマチックなストーリーが展開し、不朽の名作としていまなお幅広い世代から愛され続けている。

作品づくりのおいてこだわっていたことについて、富沢は「荒唐無稽な部分がとても多いけれど、重さや空気感など、絵を描く側としてはそれをいかに本当らしく描いていくかということに、注力していました」と吐露。制作進行を担当していた竹内は、「荒唐無稽な話を作りながらも、細かいところの嘘をついていない。火を起こしたり、風の抵抗を受けたり、海に潜ったりなど、実感やリアルなものを積み重ねて、最終的に大嘘をつく。これは詐欺師と同じなんですよ(笑)」と細部にリアリティが宿っているからこそ、どんな展開、表現も受け入れられるものになったと話す。

目の前に現れる名シーンに感動
目の前に現れる名シーンに感動[c]NIPPON ANIMATION CO., LTD [c]Museo d'Arte Ghibli [c]Studio Ghibli

荒唐無稽な描写とリアリティについての話の流れにおいては、“コナンの足の指”の描写について盛り上がるひと幕も。コナンの“足の指力”は本作の楽しい見どころとなっているが、安西が「コナンだけ靴を履いていない」と指摘したところ、宮崎監督は「それはそうだよ。靴を履いていたら、足の指が見えないでしょ。コナンの特徴は足の指なんだから、一人だけ靴を履いていないんだ」と説明していたそう。

友永は「足の指もそうだけれど、コナンは女の子を抱えたままドンと落ちて、そのまま地面にめり込んだりもする。日常をきちんと描いているので、最後の大団円でも大嘘をつける。ギガントの上を走ったりするのも、あれは新幹線の屋根の上を走っているようなもので、できるわけがない。細かい表現を積み重ねていくことによって現実感、信じられる世界ができる。それが演出家が、演出家たる所以」とコメント。「コンテに描かれた感情を、僕たちはいかにレイアウトの画面に表現するか。そこに全力投球を注いだ。それができていないと宮崎さんにボロクソ言われるでしょうから。必死でしたよ」と苦笑いを見せていた。

キャラクター表から、コナンの表情はより豊かに変化していった
キャラクター表から、コナンの表情はより豊かに変化していった[c]NIPPON ANIMATION CO., LTD [c]Museo d'Arte Ghibli [c]Studio Ghibli

コナンの表情も、キャラクター表に描かれていたものより、どんどん豊かなものになっていったという。安西は、20数年前に宮崎監督と大塚康生が会話をしている場面に出くわしたことがあるといい、その様子が「コナンとジムシーにそっくりだった。動き、表情もそっくりだった」と証言。友永も「特にコナンの顔は、宮崎さんの顔にそっくり。力んだ時の顔とか」と笑いつつ、「宮崎さんは、上がってきた原画の表情がおもしろければ、キャラクター表と違っていても直さなくいいと言っていた。原画のおもしろさやエッセンスを出したいという方針があった」と豊かな表情の秘密を明かす。富沢も「展示にはキャラ表もありますが、一番最初のコナンがどんな顔をしていたのかを見ていただけたら楽しいと思います。全然違います」とにっこり。

躍動感の秘密とは?
躍動感の秘密とは?[c]NIPPON ANIMATION CO., LTD [c]Museo d'Arte Ghibli [c]Studio Ghibli

竹内は、「宮崎さんの描く、漫画映画。歩く、走る、ジャンプする、転がるなど、コナンのなかにはすべての動きが入っている。生き生きとしている秘密は、走る(動き)とジャンプがいろいろなところに入っているから。これがコナンの活劇。アニメーションを観てもらうと、動きが画面からはみ出しているのがわかる」と画ではなく、動いているアニメーションだからこそ、本作の魅力が味わえると断言。展示でも躍動感の秘密について説明されているが、安西も「ぜひ映像を観ていただきたい」と展示と共に、改めて全26話を楽しんでほしいとアピールしていた。

「『未来少年コナン』展ー漫画映画の魅力にせまる!ー」は、本日28日〜2023年5月(予定)開催。三鷹の森ジブリ美術館は、日時指定の予約制。チケットは毎月10日に発売される。

取材・文/成田おり枝

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