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ムン・ソリが惚れ込み実現!新しい家族映画『三姉妹』が女性たちを勇気づける

コラム 2022/6/16 20:30

ムン・ソリが惚れ込み実現!新しい家族映画『三姉妹』が女性たちを勇気づける

家族映画というジャンルの特徴と言えば、ぶつかり合う一家があるピンチを乗り越えるために一致団結し、問題を解決する姿だ。チームワークからほど遠かった一家が怪物に立ち向かい末娘を取り戻しに行く『グエムル 漢江(ハンガン)の怪物』(06)を生み出した韓国映画も例外ではない。激しい喧嘩から固い結束までのストーリーラインは、強いカタルシスを感じさせる要素にもなっている。イ・スンウォン監督『三姉妹』(6月17日公開)は、そうしたウェルメイドな展開をなぞりながら、女性をはじめとする社会のマイノリティをめぐる現実問題に繋げることで、家族映画の定型的な表象を変えようとする新しさがある。

問題だらけの三姉妹の次女を演じたムン・ソリ
問題だらけの三姉妹の次女を演じたムン・ソリ[c]2020 Studio Up. All rights reserved.

ムン・ソリが惚れ込んだ脚本と“三姉妹”の絆

『三姉妹』のきっかけは、イ・スンウォン監督の長編デビュー作『コミュニケーションと嘘』(15)を、2015年の釜山国際映画祭でムン・ソリが観たことだった。精神的に深い傷を抱える二人の男女を中心に、他者と心を通わせることの本質的な難しさを描いたこの映画は、NETPAC賞と今年の俳優賞(チャン・ソン)を受賞したが、審査員を務めていたムン・ソリは出演していたキム・ソニョンの演技にも驚かされたという。のちにムン・ソリがイ・スンウォン監督に会った時、キム・ソニョンと共演するストーリーを構想中だと聞かされ、ほどなくして初稿が送られてきた。

その出来映えに惚れ込んだムン・ソリが出演を快諾し、企画が動いた。監督は最初からムン・ソリに次女を、長女にはキム・ソニョンを配役していた。決まっていなかった三女には、リュ・スンワン監督の『ベテラン』(15)でファン・ジョンミン率いる広域捜査隊の紅一点、堂々としたキックのパワフルさが強烈だった“ミス・ボン”ことチャン・ユンジュの名前が挙がった。こうして集まった三人は姉妹のように絆を深めていく。チャン・ユンジュは、演技経験の少なさによる不安を抱いていたが、二人の女優はまるで姉のようにシナリオや作業環境への悩みを細かく聞き、解消していったそうだ。こうして三人は本当の“姉妹”となると同時に、自身の役柄を突き詰め、構築していった。

【写真を見る】家族は崩壊寸前!?ギリギリの三姉妹
【写真を見る】家族は崩壊寸前!?ギリギリの三姉妹[c]2020 Studio Up. All rights reserved.

本作の主人公は、花屋を営む長女ヒスク(キム・ソニョン)、敬虔なクリスチャンの次女ミヨン(ムン・ソリ)、劇作家の三女ミオク(チャン・ユンジュ)の三人姉妹だ。ヒスクは夫から金をせびられ娘は反発ばかり、そして癌の宣告を受けている。ミヨンは大学教授の夫と二人の子どもに囲まれ何不自由なく暮らしているが、幼い娘は食事前の祈祷を頑として拒み、夫は学生と浮気をしている。ミオクの夫は優しいが、彼女自身はスランプらしく酒をあおっては管を巻いていて、連れ子のソンウンからは疎まれている。妻であり、母親であり、姉妹である三人の人生はどこかしら綻びていて、本作はそんな彼女たちの行き詰まった日常を足がかりに、娘だった三姉妹の家族に隠された問題を浮き彫りにしていく。

何かから逃れるように必死に祈りを捧げるミヨン
何かから逃れるように必死に祈りを捧げるミヨン[c]2020 Studio Up. All rights reserved.

彼女たちのキャラクターは、セットや衣装でもよく表現されている。今ひとつ繁盛していないヒスクの花屋は間取りが奥まっていて薄暗く、自宅も「節約のため」照明を点けない。テレビの明かりだけに頼るヒスクの表情はうかがい知れない。彼女の服装も、地味で没個性的だ。それはまるで、何かから隠れて暮らしているように見える。一方、ミヨンの新築の家は開放感に満ちていていかにも裕福そうであり、彼女自身もシンプルで上質な物を身に纏っているのだが、それがむしろ幸福が上辺だけであることを露わにしているようだ。金髪(これはチャン・ユンジュの友人の発案によるものだという)に原色のアイテムを着こなすミオクは、見るからに破天荒で身勝手さを感じる。韓国焼酎の瓶が散らかったまま過ごす様子は雑な性格が出ているが、ムン・ソリが「全く違うエネルギーを私たちに吹き込んでくれるような感じだった」とチャン・ユンジュの起用が決まった時のことを振り返るように、姉二人にない力を発揮することがミオクの役割だった。かつてムン・ソリはイ・チャンドン監督から「役を演じるのではない。役を生きろ」とアドバイスされた。三姉妹たちは確かに、映画の中で姉妹として生きていた。

シンプルで良質な服装はミヨンのキャラクターに合っている
シンプルで良質な服装はミヨンのキャラクターに合っている[c]2020 Studio Up. All rights reserved.

家族の中で無視されてきた姉妹たちの声

韓国ではかつて、『姉妹の花園』(59)という作品が作られた。突然父を病気で失った姉妹の姿を通して、自由恋愛や女性の自立を描いた映画である。長女として弟妹の面倒を見るため、望まない結婚を強いられる姉チョンヒ(チェ・ウニ)と、あくまで個人の幸福を追求する現代的な女性での妹ミョンヒ(チェ・ジヒ)の対照的な生き方は、朝鮮戦争が休戦して6年が経つ中で少しずつ芽生え始めた女性の自由への意識と、それでもなお規範的な倫理観を強いる社会を端的に反映している。韓国古典映画の巨匠シン・サンオク監督の女性観を示す作品として今も知られた一本ではあるものの、時代の限界からか姉妹をフィーチャーしているとはまだ言い難い。そう考えてみると、韓国映画で家族における姉妹という存在を前面に打ち出した作品は、この『三姉妹』が初めてだと思われる。

それでも近年の作品を注意深く観てみると、これまで“居ない者”ものとされてきた姉や妹たちの声が聞こえてくる。新時代の女性映画としてタイトルが挙がることの多い『82年生まれ、キム・ジヨン』(19)では、姉ウニョン(コン・ミンジョン)とジヨン(チョン・ユミ)、末弟のジソク(キム・ソンチョル)の三人姉弟が登場するが、父親をはじめ、祖母も伯母もジソクばかりを贔屓して可愛がり、ウニョンとジヨンは家政婦のように扱われる。そして二人の母親であるミスク(キム・ミギョン)もまた、兄たちの学費のために教師になる夢を諦め、女工として働いていたのだった。ウニョンのたくましさが救いとなるため、まだ映画はそこまで胸苦しく感じないが、原作小説にはウニョンとジヨンが相合い傘だったのに対し、幼い弟は一人で一本の傘を差していたという象徴的な表現や、ジヨンたちが生まれた頃の韓国社会では出生前の性別鑑定と女児の堕胎が公然と行われていた事実も書かれている。家族の中の女性である姉や妹は、文字通り知らないうちに葬られてきたのだ。

家族の中の女性の声をすくい上げた『82年生まれ、キム・ジヨン』
家族の中の女性の声をすくい上げた『82年生まれ、キム・ジヨン』[c]2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

はちどり』(18)はシスターフッドやジュブナイルといった多様な主題への窓を持つ一方で、家庭内における姉妹への不均衡により重く告発した。主人公ウニ(パク・ジフ)には姉スヒ(パク・スヨン)、兄デフン(チョン・サンヨン)がおり、デフンは父から名門ソウル大学への進学を厳命されているプレッシャーから終始苛立ち、妹に支配的で暴力も振るっている。ウニはそのことを訴えるが、父は「喧嘩をするな」と取り合わない。一方、年頃らしく夜遊びを繰り返すスヒは、父から学校の成績などを論って厳しい叱責を受ける。姉と兄、妹への処遇は、まるで釣り合っていない。同時に『はちどり』は、韓国社会の伝統的な問題としてしばしば挙げられる、家族内の男性が権力を握る家父長制の被害が広範囲であることにも言及している。もちろん、犠牲のほとんどは従属的な立場に置かれる女性たちではあるが、強さや有能さといった男らしさからこぼれ落ちた男性もまた、敗北者として家父長制の中で虐げられる。だからこそ、デフンは何としてもソウル大学に合格しなければならず、憂さを晴らすように妹を殴るのだ。最近よく言われるようになった、伝統的な理想の男性像への同調を促す“有害な男らしさ” は、こうして再生産されていく。

この世界の不条理と美しさを少女の目線で描いた『はちどり』
この世界の不条理と美しさを少女の目線で描いた『はちどり』[c]2018 EPIPHANY FILMS. All Rights Reserved.

姉妹だからこそ家族の在り方を変えられる

映画を最後まで観ると明らかになるが、イ・スンウォン監督は三姉妹の家族構成にある工夫を凝らすことで、家父長制が作り上げる“有害な男らしさ”をあぶり出した。そして、家族という共同体で無視されてきた姉妹たちの声をすくい取る。完璧な妻/母であるミヨンは、夫の浮気相手を陰湿に痛めつけたり、祈りを捧げない娘を威圧したりと、その素顔は暴力的だ。ヒスクは何かをごまかすように笑みを浮かべることが多く、むしろその表情が彼女の傷を物語る。彼女たちは家父長制の“有害な男らしさ”による弊害をそれぞれの形で受け継ぎ、苦しんでいるが、そんな三姉妹だけが、抑圧的な価値観を打ち砕き、家族に心の自由と安らぎをもたらしていく。『三姉妹』を観て得られる軽やかさは、多くの家族映画にある満足感とは全く異なるだろう。この映画は、家庭に居場所のなかったアウトサイダーであり、時には暴力のサバイバーであった姉妹たちが「私たちはここにいる」と叫んだ勇気への感動と、その瞬間に立ち会えたことへの喜びをくれるのだ。


暴力的なミヨンもまた家父長制の犠牲者
暴力的なミヨンもまた家父長制の犠牲者[c]2020 Studio Up. All rights reserved.

本作が男性監督であるように、作り手の性別を越えて女性の視点が描かれる良質な映画が増えてきている。しかし、そうした作品に数多く出演しているキム・ソニョンでさえも「そんな実感は全くありません。正直、まだまだ少ないですね」と答える。「韓国映画だけでなく、世界中で女性が主体的に世界を見つめる視線が受け容れられていないと思います。世界のすべての偉大な監督は男性、作家も男性です。歴史がそう作られてきたので、この程度で変化した、とは言えません。それが不満というより、少しずつ、本当に少しずつ良くなっているという感じです。今の流れに皆が同調はしないでしょうし、誰かが抵抗もするでしょうけれど、ある瞬間明らかな変化が来ると思います」と本音を語った。『三姉妹』は、あらゆる抑圧を脱した新しい世界に踏み出すための一本になるに違いない。

文/荒井 南

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