『千と千尋の神隠し』「油屋」モチーフの大型空間も!「鈴木敏夫とジブリ展」展示内容を公開
セレモニー後には、囲み取材が実施された。開始直前にはチョコレートを頬張り「食べると元気が出るんです!」と微笑んだ鈴木は本展覧会の目玉でもある「8800冊の本」について触れる。「本が好きで、本を何冊も持っている世代の人間です。本から影響を受けるというよりも、とにかく本を読むことが好きなんです。なので、今回の展示で唯一、僕が提案したのは、自分の持っている本を1箇所に集めて全部展示することでした。自分の持っている本が一堂に会したら、どんな風になるんだろうという期待がありました」とニコニコ。実際の展示を見て「こういう部屋が欲しくなりました」と感想を伝えていた。
また、鈴木、宮崎駿、高畑勲の3人の本の読み方については「いい機会だから、話しちゃいます!」と笑顔を浮かべ、宮崎の読み方は「非常に独特」とし、「出会った頃から今日に至るまで、児童書を読んでいる人。月に4、5冊、多いときには10冊くらいの児童書を読みます。それがベースとしてあり、評論のようなものまで読むというスタイルです」と説明。
高畑については「時代に敏感な人」とし、「時代時代で『なぜ、こういうことが今、起きているのか』を解明するために、5から10冊の本を買い、人の意見を踏まえたうえで、自分の意見をまとめます」とし、「二人に比べると僕の読み方は“乱読”(笑)。ちょっと惹かれるポイントがあると、その人にまつわる本を全部読みます」と明かし、作家別に並べると、ずらりと揃う作家作品もあると話した。本棚にはいわゆる「ベストセラー」がないことを指摘されたという鈴木は「僕は、みんなが読んでいる本には興味がないんで(笑)」と、本のセレクトにもこだわりがあることに気づいたと語っていた。
子どもの頃から読んでいたのは手塚治虫の漫画だと答えた鈴木。「いつも隣には手塚治虫さんの漫画がありました」とうれしそうに、振り返っていた。本好きの鈴木だが、最近は読書量が減ってきたという。「以前はひと晩で1冊読むこともできましたが、歳をとったせいか、体力の関係で1週間かけて1冊読む感じです」と現在の読書スタイルも明かしていた。
いまの鈴木を作ったのは「父親の影響がある」とのこと。「地元名古屋は繊維のまちでした。実家では、いろいろな職人さんが働いていて、父親はいつも忙しくて遊ぶ暇がなかった。幼稚園の頃に少年漫画の月刊誌を買い与えてくれ、さらに、4.5畳の部屋も与えてくれました。1か月かけて月刊誌の漫画を繰り返し読む、そして、翌月になったら新しい月刊誌で新しい漫画を繰り返し読む。そんな生活を繰り返し、気づけば、その部屋に漫画がたまっていく。気づいたら友達が来て読んでいた。友達が読んでいた漫画をその部屋に置いていくと、さらに漫画が増えていく。僕に月刊誌と部屋を与えてくれたことは、いま振り返ると、この仕事に結びついた気もしています。(再現され展示されているような)綺麗な部屋じゃないし、もっと雑然としていたけれど」と苦笑いしつつ、壁に貼ってある当時の漫画の付録のポスターなども、のちに付録付きの雑誌を作るようになったきっかけになったのかもしれないと話していた。
展示は第1章「四畳半の原風景〜少年時代の思い出〜」、第2章「東京へ〜激動の大学生活〜」、第3章「アニメージュへの道〜雑誌記者・編集者として〜」、第4章「時代を読む眼〜ジブリとメガヒットはこうして生まれた〜」、第5章「プロデューサーからクリエイターへ〜書家、作家としての多彩な才能〜」、第6章「鈴木敏夫の本棚」、そして油屋別館で構成。鈴木が捨てずに取ってきたものたちに溢れる、今の鈴木を形成するものが体感できる展示となっている。鈴木の思考術、思考の過程を、隠れ家のような空間でじっくりと堪能してみてはいかがだろうか。
取材・文/タナカシノブ