トム・ハンクスが語る、“エルヴィス”を演じた新星の衝撃「彼から目が離せなかった」
伝説のロックスターとして語り継がれるエルヴィス・プレスリーの知られざる物語を、『ムーラン・ルージュ』(01)や『華麗なるギャツビー』(13)のバズ・ラーマン監督が描きだした『エルヴィス』(公開中)。本作でエルヴィスのマネージャーであるトム・パーカー大佐役を演じた名優トム・ハンクスは「バズの頭のなかの時空で踊るように、ただその流れに身を委ねていました。大変すばらしい仕事でした」と撮影を満足そうに振り返る。
1950年代から1970年代にかけて活躍し、ビートルズやクイーンなど多くのアーティストたちに多大な影響を与えたエルヴィス・プレスリー。本作では、その波瀾万丈な生き様が数々の名曲と共に描かれていく。真新しい音楽“ロック”とセクシーなダンスで若者たちを興奮の渦に巻き込み、エルヴィスは一気にスターダムを駆け上がっていく。しかしその一方で、保守的な大人たちは彼の音楽を受け入れようとはしなかった。そしてブラックカルチャーをいち早く取り入れたパフォーマンスは世間の反発を浴び、エルヴィスは世間の非難を一身に浴びてしまうことになる。
「いまではすっかりエルヴィスの聴き方が完全に変わりました。この映画のおかげで各曲の背景や時代について、多くを知ることができたからです」と語るハンクスは1956年生まれ。エルヴィスの全盛期にはまだ幼く、それでもエルヴィスの影響力を如実に感じることができた世代であろう。「この映画は数世代に一度しか訪れない“天才”を描いた映画。ピカソやチャップリンと同様、職業を通して文化のかたちを変えただけでなく、社会が受け入れていくという文化的な変化をもたらしたのがエルヴィスだったのです」と、その偉大な功績を語っていく。
「“ザッツ・オール・ライト・ママ”でエルヴィスはあることを成し遂げました。それは単なる奇跡的な成功というだけでなく、地球に彗星がぶつかり、風景と気候を変えてしまったような出来事だったと言えるでしょう。エルヴィスが引き起こしたそのことを、この映画は描いています。エルヴィスは地球に、文化的生活の進化をもたらした。彗星はメンフィスに落ち、そこから派生したすべてが大きな出来事になっていったのです」と、エルヴィスの出現そのものが、その後の世界に絶大なインパクトを与えたことに言及する。
そんな本作でハンクスが演じたパーカー大佐は、数々の逸話が残されている悪名高き人物。これまで好感度の高い役柄を多く演じてきたハンクスにとっては、珍しいタイプの役柄だ。「大佐は様々な魅力的な要素を組み合わせた人物。昔ながらのカーニバル屋であり、非常に賢いビジネスマンでもあり、10セント硬貨すら惜しむケチでもあった。それでも、大型ショービジネスを開拓したパイオニア的存在だったのです」と、パーカー大佐という人物像について説明。
エルヴィスは音楽活動だけでなく、1950年代の後半から10年ほどの間に30本以上の映画に出演。それを仕掛けたのはもちろんパーカー大佐であり、ハンクスは「良いか悪いかは置いておいて、彼の決断は正しかった。よく『大佐がエルヴィスをひどい映画に出演させた』などと言われるけれど、大佐は彼を映画に出演させただけで、どんな内容かは気にしていなかったはずです」と語り、「でもエルヴィスは5つの作品では、とても良い演技を見せていました」と俳優としての見地からもエルヴィスのスター性を讃えた。
本作でひときわ大きな注目を集めているのは、エルヴィス役に大抜擢されたオースティン・バトラーの好演だ。一部ではアカデミー賞の有力候補になるとの見方も強まっているが、すでに2度アカデミー賞に輝く名優は、彼の演技をどのように見ていたのだろうか?
ハンクスは「オースティンはリスクと責任を負っていた。大スターらしさと親しみやすさを同時に出さなくてはならないタイミングもあり、彼がそれをどうやってこなしたのか、私には皆目見当もつかない」とすっかり脱帽した様子で語る。
「彼がステージ上に出てくるシーンは30回くらいありました。撮影中は毎回本当に衝撃的で、片時も目が離せなかったのです。ただひたすら、彼が演じている姿を見ていたかった。それは役作りや、オースティン自身が持ち合わせているやる気のおかげだと感じます。また彼は、演技を作り上げる過程や自分自身に大きな信頼を置いていました。それは本当にエルヴィスにそのものです」と若き新星に熱烈な賛辞を送っていた。
構成・文/久保田 和馬