夢枕獏が語る、フランス版『神々の山嶺』の魅力「アニメーションの新しい扉を開いてくれる」
夢枕獏の同名小説をアニメーション映画化し、第47回セザール賞アニメーション映画賞を受賞した話題作『神々の山嶺(いただき)』が7月8日より公開された。フランスでは大ヒットを記録したが、日本での凱旋上映に先立ち、原作者の夢枕獏と、緊急来日した本作のプロデューサー、ジャン=シャルル・オストレロの舞台挨拶付き公開前夜祭が7月7日に開催された。
「登山家マロリーはエベレスト初登頂に成功したのか?」という登山史上最大の謎の鍵を握る1台のカメラ。本作では、孤高のクライマー羽生と、彼を追うカメラマンの深町が、初登頂の謎に迫りながら、前人未到の冬季エベレスト南西壁無酸素単独登頂に挑む姿が描かれる。製作に7年をかけ、熱い人間ドラマと実写では再現不可能な命がけの登頂シーンを圧巻の映像美で表現した本作。日本語吹替版は堀内賢雄、大塚明夫、逢坂良太、今井麻美ら豪華な声優陣が務めた。
盛大な拍手のなかで迎えられた2人。夢枕は「大変すばらしい出来で、特に1980年代日本の風景がすごくよくできている。いま、アニメーションというとファンタジーとかファイトなどが主流で、僕も好きでよく観るんですけれども、 この映画を観終わった時に、こういうものをアニメーションにしても十分おもしろいんだっていうことを、この映画で教わりました」と映画のクオリティを称えた。
また、本作の製作に関わった「神々の山嶺」のコミックで知られる漫画家の谷口ジローが、映画の完成を願いながら、2017年にこの世を去ったことについて、夢枕は「谷口さんが漫画化してくださらなければ、絶対にこの映画はフランスで作られなかったと思うんですね。谷口さんの人気はフランスではすごくて。そういう流れがあって初めてこのアニメーションは完成したんだと思っています。谷口さんにぜひこの場にいてほしかったと、本当に思います」と、谷口の死を悼んだ。
プロデューサーのオストレロも「谷口ジローさんの原作に出会い、すぐにファンになりました。なんとかしてこの作品を映画化する方法がないかと思い手紙を送りました。長年の夢を、夢枕さん、谷口さん、多くのスタッフの方々のおかげもあり、実現できたこともうれしく思っています。この映画は、フランスにおいてカンヌ国際映画祭で出品され、セザール賞のアニメ部門の最優秀賞を受賞しました。日本で生まれた作品でもあるので、今回の公開は映画にとってとても大切なひと時だと感じています」としみじみ語る。
さらにオストレロは、監督のパトリック・インバーについても「監督のパトリックは、夢枕さんとジローさんの精神をそのままに、新しい視点を持ち込み、普遍的ですばらしい作品を作ってくれたことにこの場を借りて心から感謝いたします」と称賛した。
最後にオストレロが「フランスでは、この映画は上映されてからすでに40週目に入っておりますが、まだ映画館で上映されロングヒットを続けています。日本でも多くの方にご覧いただき、映画が成功することを心から祈っています」とコメント。
夢枕も「改めて言いますが、80年代の居酒屋の風景が、ほぼ完璧に再現されているんです」と、再度、完成度の高さを口にし「それだけすばらしいものになっていますので、(本作が)アニメーションの新しい扉を開いてくれるんじゃないかなと、僕は期待をしています」と賛辞を述べ、オストレロにお祝いの花束を贈呈して、イベントを締めくくった。
文/山崎 伸子