フェミサイドを女性の視点で描く覚悟。Apple TV+「シャイニング・ガール」エリザベス・モス、ジェイミー・ベルらにインタビュー!
カービーとコンビを組むダンは、現在の世の中では珍しい種族になってしまった古いタイプのジャーナリストだ。大学でジャーナリズムを学び、一時は新聞記者を目指したヴァグネル・モウラは、「ダンを演じることで夢を叶えることができた」と言う。さらには、ミステリーでありながらも、現在の社会において重要な問題を提起しているところにも感服したそうだ。
「このドラマは、フェミサイド(性別を理由にした殺人)の問題を扱うと共に、生き残ること、克服することをテーマにしています。私は、ブラジルのような非常に性差別的な環境で育ったので、この問題を何度も目にしてきました。メキシコで『ナルコス』の撮影をしていた時、女性たちのストライキに立ち会いました。女性たちは外出せずに家に籠り、社会の不寛容性を訴えたのです。とてもすばらしい行動だと思いました」と語り、このドラマは脚本、演出、制作が女性によるチームであることが参加理由の一つだったと認めた。
制作総指揮のミシェル・マクラーレンの言葉からは、連続殺人鬼によるフェミサイドを女性の視点で描くことの覚悟が語られた。「私は自分のことを女性監督だとは思っていません。たまたま女性で、演出の仕事をしていると考えています。どんなタイプの物語についても語れると思っていますし、それが私の仕事です。でも、クリエイティブなプロセスに関わる人は誰でも、自分のアイデンティティを作品に注入することになります。私は女性です。ですから、女性の脚本家による物語、女性が主演する映画、そして女性と男性が関わって作られる物語には、ある種の視点が生まれるのは必然だと思います。そして、それは必ずしも女性の視点だけではないと思います。被害者の代表は男性でも女性でもいい。今作の場合は、たまたま女性が被害者だったというだけです。だから、私たちは事件の暴力性とは対照的な、感情的な結果に焦点を合わせました。必ずしも、女性が被害者だからそうしたということではありません。社会的立場が弱いすべての人に力を与える作品であってほしいと願います」。
フェミサイドが起きうる理由を解くことも、このドラマが挑戦しているテーマの一つ。「連続殺人鬼の容疑をかけられる人物を演じることは、この問題を理解することにつながる」とジェイミー・ベルは定義する。「ハーパーがこうした行動に出る理由はなんなのか?それは支配、つまり、男には支配が必要だという思い込みから生まれる。自信、能力、才能、家族…僕にはないものを君が持っているから、その輝きを奪ってやろうと思ったのではないでしょうか。でも、人がなぜこういうことをするのか、その犯罪心理について僕が語ることはできません。
ある人物を演じる時、共感したり同情したりするのではなく、十分に理解するよう心がけています。ハーパーが殺人に手を染める心理を分析することはできないけれど、人を人と見ずに“所有物”と捉え、コントロールすることで強迫観念を埋める行動を理解するよう務めました」と語り、連続殺人鬼に関する書籍や言説は世の中に飽和しているが、そのどれもがケーススタディにすぎず、思い込みで演じることを避けたという。また、そのアプローチ法は彼の演技論でもあり、役者が感情を入れずに役柄をただ理解し演じるものを、監督やプロデューサーが考える物語に合わせて取捨選択してもらいたい、と語っていた。
ショーランナーのシルカ・ルイーザは、ジェイミーの演技に多大なる賞賛を贈る。「この作品の最大の特徴は、ハーパーのキャラクターです。ジェイミー・ベルは見事に演じきってくれました。そして、ハーパーに弱さと、少年らしさをもたらしました。彼はとても不安定な男で、暴力によってでしか、自分を肯定することができません。その描写、ジェイミーの演技は、私がこれまで見てきた連続殺人犯の一般的なイメージである、セクシーな仮面を被り、知的な黒幕のような描写を遠ざけるのにとても役に立ちました」。
制作総指揮と演出を務めたミシェル・マクラーレンは、シーズン1の全8話で、ドラマを見慣れた洗練された視聴者の期待に応えるようなジャンルのミックスを念頭に置いていたという。「私のフィルモグラフィーは、様々なジャンルの作品で仕事をしてきた結果です。そして、『シャイニング・ガール』は異なるジャンルの側面が共存している、そこに魅力を感じました。新しいものへの挑戦が好きなんです。このドラマは、『大統領の陰謀』から『セブン』まで、あらゆるジャンルの影響を受けて作りました。重厚なストーリーを、視聴者の皆さんが楽しめるエンターテインメントに仕上げる方法を考えることが私の仕事であり、この仕事の醍醐味です」と語る。
昨今のドラマシリーズの特徴として、主演俳優が監督を務めることが増えた。エリザベス・モスも、主演のみならず2話の監督を務めている。エリザベスと二人三脚で脚本を書き上げたシルカ・ルイーザは「彼女が監督した第5話と第7話は、最も感情豊かなエピソードになりました。その時点で、彼女はシーズンの半分を演じ終えていたので、すべての登場人物を知り尽くしていたし、この作品と本当に深い繋がりを感じていたからだと思います」と分析する。
多くのシーンをエリザベスと共演したヴァグネル・モウラは、「エリザベスとは最初から一緒にいることが多かったけれど、彼女が監督したエピソードでも、常に私と一緒に居続けてくれたことにとても驚きました。同時に、彼女がこのドラマの全体像を理解していることが伝わってきて、本当に感心させられました。私も、映画や『ナルコス』のいくつかのエピソードを監督したことがあるので、それがいかに難しいことか理解しているつもりです。彼女がこのドラマでやったことは、感嘆に値します。彼女は私がいままでに出会ったなかで最も才能のある人物の一人でした」と、エリザベス・モスの並はずれた才能に太鼓判を押す。
エリザベス自身は、「時間的制約が最も大変でした」と認めたうえで、監督を務めたことによって俳優としてのアプローチにもフィードバックが得られたと語る。「演出家は、物語の語り部として、様々な登場人物の視点からアプローチしなければならないし、演じる役者に対する答えを持っていなければなりません。脚本やストーリーをより深く理解することができました。それが、演じる面でも本当に役に立っていると感じています。なぜなら、そのキャラクターを演じている自分自身の視点だけでなく、美術、撮影、脚本、そしてそのシーンに登場するほかのすべての人物の視点からアプローチしているので、キャラクターをより深く理解することができるのです」。彼女のこの返答は、ドラマシリーズにおいて俳優が監督を務める理由の明解な答えになっている。
連続猟奇殺人を追う2人のジャーナリストのスリリングな物語から、このような事件が起きる社会的状況を見つめ、さらには立場の弱い人々を勇気づけるような後味を目指す。『シャイニング・ガール』の8話に込められた女性クリエイターたちの想いを受け止めてほしい。
取材・文/平井伊都子