福士蒼汰&工藤阿須加、誉め合いながら「仕事」を語り合う
ブラック企業のサラリーマンと、謎多き友人の交流を描いた共感感動ムービー『ちょっと今から仕事やめてくる』(5月27日公開)。パワハラ部長に散々なじられるサラリーマン・青山隆に工藤阿須加、気のいい関西の兄ちゃんを演じた福士蒼汰。初共演という2人に、5カ月に及ぶワークショップで築いたイイ関係、アロハの秘密など、本作に携わった日々を振り返ってもらった。
福士くんのおかげで乗り越えられた
――役作りの肝となったのはどんなところですか?
工藤阿須加(以下、工藤)「原作を読んだ時、正直、青山と向き合うのは大変だと思いました。社会問題を扱っているので、僕が演じることで軽く捉えられてしまうのが一番怖い。だから、毎日懸命に働く人たちとどれだけシンクロできるかが勝負だと。サラリーマンの友人に話を聞いたり、スーツを着て満員電車で現場に通って、青山の生活リズムとサイクルを自分に叩き込みながら撮影に臨みました」
福士蒼汰(以下、福士)「僕が演じたヤマモトは謎だらけ(笑)。彼は明るく引っ張っていくタイプですが、僕の中にヤマモト要素が少なかったので、最初は難しいなと思いました。大事にしたことは、ヤマモトの影の部分。ネタばれになるので言えませんが、過去にある出来事が起きて、救いを求めていたんだと思います。そんな中、今にも死にそうな青山を駅で見かけて、この人を助けることで、自分も救われると感じたんじゃないかと思います」
――確かに青山とヤマモトはお互いを救い合っているような、不思議な関係ですよね。それぞれ撮影中に助けられたことはありますか?
工藤「ヤマモト役が福士くんで本当によかったです。僕が先にクランクインして、ブラック会社のシーンを先に全部撮ったんです。その時は、ワークショップやリハーサルでやっていた福士くんとの楽しいシーンが頭の中に浮かんで、心の支えに。で、2週間後に福士くんが合流した時は、救われた思いがしました。乗り越えられたのは、福士くんのおかげです!」
福士「工藤さんは、青山と真っ直ぐなところがシンクロしていました。特に印象的なのは目。喜怒哀楽を目で表現してくれるので、今こういう心情なんだとこっちも理解できるので、演技する上で助けられました。工藤さんは自分にないものをたくさん持ってる。自分もよくマジメって言われるんですが、それ以上にマジメ。ストイックな役へのアプローチとか、見習うべきところがたくさんあります」
工藤「福士くんこそ仕事に対してストイックで紳士的。しかも、人を惹きつける力を持ってる。ワークショップ初日に挨拶したとき、「福士です。よろしくお願いします」と笑顔で言われたときは、これは女の子は好きになるなと思いましたね(笑)」
上司に怒られるシーンで本当に涙が
――それぞれのキャラを演じる上で苦労されたことは?
福士「やっぱり関西弁です。東京で生まれ育ってるから耳に慣れていなくて。今回は芸人の加藤康雄さん(烏龍パーク)が方言指導として、付きっきりでいてくださって。何回も「ちょっとちゃう」って言われて、自分的には「同じやん」って(笑)」
工藤「僕は、青山の気持ちをキープするのが大変でした。撮影中は、家族や友人と連絡を取らないようにして。そしたら、食事も喉を通らなくなっちゃって、青山のように部屋もどんどん荒れてくるし、孤独に押し潰されそうになりました。暗闇の中、ポツンと家にいると、怖いし、つらい。人間、ひとりでは生きていけないんだなって(笑)。吉田鋼太郎さん演じる山上部長に怒鳴られるシーンは気付いたら涙が…。無我夢中であんまり記憶にないんです」
福士「完成した映画を見て、あのシーンは可哀想だなって思いました」
工藤「あのシーンの後、吉田さんは『ツバ飛んだだろ、ごめんな』って。むしろ気を遣わせてしまい申し訳なくて。優しくて、本当にカッコいい。吉田さんみたいな男になりたいです!」
――5か月に及ぶワークショップは、具体的にどのようなことをされたのですか?
福士「成島出監督やアクティングコーチと話をして、発声法や台本の読み方を教わり、目から鱗な経験ばかりでした。意味のないセリフはひとつもなく、その意味を汲み取って理解すること。画面に映ってない時でも、キャラクターが何をしているのかを考えること、などなど。例えば、ヤマモトは深夜バイトをしていて、青山に早朝呼び出されたとしても、バイト終わりに駆け付けることができた。脚本にはバイトシーンもあって、監督は最後まで入れるかどうか悩まれてたんですが、最終的にはなくなりました。でもバックグラウンドをきちんと理解することで何を伝えたいのか明確になるし、上手じゃなくても素直に伝えようとすることで、お客さんに届くと教えて頂きました」
工藤「役者として、深く考えなきゃいけないことがたくさんあると、教えていただきました。そう言えばワークショップで、お互い褒め合うレッスンをやったよね。福士くんの笑顔がステキ、英語が堪能とか」
福士「工藤さんは目がキレイ、スポーツ万能…。何だか恥ずかしい(笑)」
もしも勤めた会社がブラックだったら?
――衣装にもこだわったそうですね。
福士「ヤマモトはほぼアロハシャツなんですが、バヌアツ共和国(劇中に登場)にJICAで行ってらっしゃる先生がいらして、その方がオレンジ色のワンピースを着てらしたんです。それを見た成島監督が、ヤマモトはこれだ!と。パイナップル柄の原色アロハとか、柄がないアロハも何度も染め直したり、すべて一点ものなんです。サイズもピッタリだし欲しいなと。今“戦利品”として狙ってます(笑)。パンツも本当は長ズボンだったけど、長いのはヤマモトっぽくないからと、バッサリ切りました」
工藤「僕は、最近スーツを着る役が多いんですが、リクルートスーツは初めてだったので新鮮でした。リクルートスーツって、自分を守る鎧でもあり、前向きに頑張ろうという気持ちにさせてくれる。毎日着て体になじませると、シワの出方や着こなし方が変わってくるし、それが自分の血肉となる。その感じが映像から伝わってくればいいなと思います」
――もしも勤めた会社がブラック企業だったら、どうしますか?
工藤「もちろん、理不尽なパワハラ上司や不当な残業は許せません。ただ、何をもってブラック企業とするかはそのひとの物差しじゃないかと。ひょっとしたら、愛ある叱咤かもしれないし。物の見方を変えてみて、自分の目指す方向とは違うと思ったら、僕も辞めてしまうかもしれません」
福士「しくじったなって思います(笑)。仕方がないから、体制を変えるためにとりあえず頑張って上を目指すと思います。で、後輩に優しくしたいです。自分じゃ上に行けないと思ったら、すぐ辞めるかもしれません(笑)」
生涯に一つの仕事をみつけたい
――本作では「希望がないと生きられない」という言葉が心に響きます。今までの人生の中で、心に響いた言葉はありますか?
工藤「僕、割とひとりでも飲み屋街に行ったりするんですけど、気付くと隣のおじさんと意気投合して、仲良くなっちゃうんです」
福士「いいな。自分は人見知りだから、羨ましいです」
工藤「楽しいよ。そうやって知り合った目上の方に“男の魅力は弱さ”だと教えてもらいました。男って強がったりする生き物だけど、50、60歳になった時に、弱さを出せる人が本当にカッコいい男だと。弱さは弱点ではなく“隙”だという意味だと僕なりに解釈してます。男として、どう生きればいいか常に考えていて、目標は持つようにしてます。とりあえず今は目の前の目標をクリアしていこうと」
福士「自分は励みになった言葉というのは特にないんですが、自分の信じるものを貫きたい。そこがウィークポイントでもあるんですけど。結構ワガママで、頑固なんです。末っ子なので(笑)」
――本作は仕事がテーマですが、お2人にとって仕事とは?
工藤「生涯に一つの仕事を見つけられたなら、幸せだと思います。この先どうなるかまだ分かりませんが、その仕事が僕にとって役者であれば幸せです。こんなに長い期間同じ役と向き合ったのは今回初めてで、辛かったけど、楽しかった。間違いなくターニングポイントになった作品です」
福士「ひとつは生きるために、お金を稼ぐものではあると思います。かといって自分はお金に執着はないんです、たぶん(笑)。あと、役者という仕事は吸収できたり、自分を高めてくれるものなのかなと。原作本を読んだりもするし、今回は大阪弁を喋ったり、職業モノであれば、その仕事について学んだりもする。自分のスキルが必然的に上がっていくはずなので、続けていたら魅力的な人間になるんだろうなと。カッコイイ50代、60代と思います」【取材・文/モトヤマユキコ 撮影/小森大輔】
ふくし・そうた 1993年、東京都生まれ。2011年ドラマ『仮面ライダーフォーゼ』で主人公如月弦太朗役で主演デビュー。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』では“種市先輩”を演じ大ブレイク。公開待機映画作品に『曇天に笑う』、『BLEACH』、『旅猫レポート』、『ラプラスの魔女』(全て18)がある。
くどう・あすか 1991年、埼玉県生まれ。2012年ドラマ『理想の息子』でデビュー。13年『ショムニ2013』で注目を浴び、『ルーズヴェルト・ゲーム』(14)、NHK連続テレビ小説『あさが来た』(15-16)、『偽装の夫婦』(15)『家売るオンナ』(16)、『就活家族~きっと、うまくいく~』(17年)と立て続けに出演。