『魔女の宅急便』を彷彿させる?黒猫が誘う新たな世界への冒険を描く『ラック~幸運を探す旅~』、監督&キャストにインタビュー
「光と闇があってこそ、人生」
プチ不幸に見舞われがちなサムの物語に、劇中でサムとウサギたちが80年代の名曲を歌って躍るような躍動感を与えたのは、元ダンサーで振付師出身という異色のキャリアを持つ監督のペギー・ホームズの力が大きい。ディズニーで『ティンカー・ベルとネバーランドの海賊船』(14)や『リトル・マーメイドIII/はじまりの物語』(08)といった作品を手がけてきたホームズ監督は、「サムの身体的な動きで彼女のキャラクターを表したかったのです。例えば、ルシル・ボールやバスター・キートン、チャーリー・チャップリンのように。脚本チームと、自分たちの日常で起きた、笑えるプチ不幸ネタを集めてストーリーを作りました」と語る。この映画の制作中にホームズ監督が見舞われた不運は、「Zoomミーティング中に、ついエキサイトして身振り手振りで話すから、いつもコップを倒してしまう(笑)。サムと一緒で、不運じゃなくて不器用なだけなんですけどね」と言い、周囲を笑わせていた。
パンデミック中に誰もが経験したZoomによる打ち合わせもとても楽しい時間だったと、ユニコーンのジェフを演じたフルーラ・ボルクが振り返る。ボルクは、ドイツのコメディアンであり俳優として『ピッチ・パーフェクト2』(15)や『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(21)に出演している。ホームズ監督に負けないくらいユーモアに満ちたボルクが演じるジェフは、映画内随一のコメディリリーフだ。「ペギー(・ホームズ監督)の熱意が画面からも伝わってきたのと、(彼女がコップを倒すならば)僕は常にカップケーキとベーグルを手にしていて、誰かが喋っている間に密かにつまみ食いをしていました。ペギーは行儀をたしなめるどころか、『良いパフォーマンスにはカロリーが必要よ!』と奨励してくれました。最高でしたね!」。
そして映画のテーマでもある“幸運”について、ペッグはこう語る。「車で家に帰る道中に信号がすべて赤だと、『俺に対するなんらかの陰謀か!』と思ったりしますよね(笑)。いまの生活を振り返ってみると…妻との出会いが“幸運”に当たるかもしれない。1999年か2000年のことだと思いますが、『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)を一緒に作ったニック・フロストとロンドンのハイストリートを歩いている時に、ふと思い立って旅行代理店に立ち寄って休暇の計画を立てました。その旅行中に妻と出会い、いまでは子どももいるのだから。この小さな決断がのちに大きなものをもたらしたと考えると、あれは運に導かれたと思いたくなります。だけど、こういうのは偶然の産物で、チャンスがやってきた時に最大限に活かすことが大事なのです。僕らは、与えられた運に責任を持たなくてはいけません。あの時のことを考え直すと、その心づもりで運を掴んでなかったら、いまのこの状況はなかったと思います。それが僕にとっての“幸運”です」と、持論を語ってくれた。同じように、フォンダにとっても幸運も不運も対立するものではないと考えているそうだ。「幸運と不運、黒と白、死と生。人生においては、それらすべてが組み合わさっています。不運がなかったら、幸運のありがたみもわからないでしょう。つまり、光と闇があってこそ、人生と言えるんじゃないでしょうか」と語る。
運の捉え方は人生観とも言える。サムは幸運のコインと、日本を含むいくつかの国では不運を運ぶと言われる黒猫とともに、運を左右するメカニズムを知る。サイモン・ペッグが演じるスコットランド訛りの黒猫に導かれ軽快なアニメーションの世界を旅するうちに、サムのように運に対する考え方が少し変わるかもしれない。
取材・文/平井伊都子