池田エライザが語る、“ハウ”こと俳優犬ベックの不思議な魅力「みんな素の表情が出ちゃう!」
『グーグーだって猫である』(08)、『猫は抱くもの』(18)など動物がテーマの作品を数多く手掛けている犬童一心監督が、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(17)の斉藤ひろしによるオリジナル・シナリオで、「ワン!」と鳴けない犬と心に傷を負った青年の絆を描く映画『ハウ』が公開中だ。 そこで、田中圭演じる主人公、赤西民夫の同僚である足立桃子を演じた池田エライザにインタビュー。最初に脚本を読んだ時の印象から話を聞くと、「この脚本が自分のもとに届いたのが、うれしかったですね」と笑顔で話し始めた。「運命的な出会いだったと思います」という彼女に、映画のことからペットと人間の関わり方までたっぷり語ってもらった。
「ほぼ自分のまま演じてしまいました(笑)」
物語は、婚約者に別れを告げられ失意の底にいた民夫が、上司の勧めで保護犬のハウと出会うところから始まる。突如始まった大型犬との生活に戸惑う民夫だったが、穏やかな日々を重ねるうちに絆を築き、幸せに暮らしていた。ところがハウは、偶然のアクシデントの連続で民夫と離れ離れになり、青森までたどり着いてしまう。「ただ会いたい」という一心で、ハウは民夫が住む横浜まで798kmの道のりを目指していく。
そんな本作で池田が演じた桃子は、愛猫の死の苦しみを抱えながらも、自分のペースで健やかに生きている女性だ。池田自身もシャンプーという名前の猫を飼う愛猫家であり、「お話をいただいたのが、ウチの子が大きな病を患っているタイミングだったんです。そこは桃子と境遇も似ていたので、彼女と素直に向き合えるなと思いましたし、実際、役作りもせず、そのまま現場に入りました」と振り返る。
「ほぼ自分のまま演じてしまいました(笑)。監督とも『猫ってこうだよね』『そうだよね』といった猫を飼っている者同士の雑談で盛り上がったぐらいで、特に細かい演出を受けるわけでもなく。私もよく『声が小さい!』って言われるから桃子も言われるんだろうなと思ったり、ホームレスの方が困っているのを見て見ぬふりができなくて、助けるために『遅刻します!』って職場に連絡する彼女の行動も、自分のことのように思えたから自然に演じられました。それに、内気な女の子に見えるかも知れないけれど、彼女は別に内気なわけじゃない。自分のテンポ、自分の心地いいムードをずっとまとっているだけ。その猫っぽいキャラも自分に近かったので、特にこう見せようと意識することはなかったです。ヘアメイクさんは私の髪の毛をボサボサにして、そこをあまり気にしていない桃子らしさを出してくれましたけどね(笑)」。
「ベックはこの星に生まれ落ちて、まだちょっとのワンちゃんとは思えない名優ぶり」
劇中には桃子とハウが一緒にいるシーンはなく、「スタッフのみなさんがハウを演じたベックの話を楽しそうにするのが羨ましかったから、撮影の空き時間に1回だけ会わせてもらいました。撮影が終わってからの取材では、ガッツリ一緒にいますけどね」と池田。この日もベックが彼女を見つけるなり飛びかかる仲のよさで、「覚えてくれたみたい。でも、40kgぐらいの体重をぶつけてくるからヤバいんですよ(笑)」と言いながらも、思わず笑みがこぼれる。
「ベックと最初に会ったのは、まだ1歳ぐらいの時。心の広さを感じる目をしていたし、純真無垢でお転婆な印象でした。でも、完成した映画で観たハウはすごく哀愁があって、表情も豊か。この星に生まれ落ちて、まだちょっとしか経っていないワンちゃんとは思えない名優ぶりでしたね。人々の心を癒やすハウの尊さが、自分の大切な人の尊さと重なるというか、そういう不思議な魅力を持っているなと思いました」。
そこで、ハウのどんなところに心を奪われたのか聞いてみると、「実は3回本編を観たんです」と告白する。「最初に観た時ももちろん感動して泣いたけど、自分のお芝居が気になったり、肩の力がまだちょっと入っていたからもう1回観たんです。そしたら、ベックが想像していた以上に足が速いし、めっちゃ楽しそうで思わずクスっと笑っちゃって。でも、笑っていいんだと思えたし、細かいところまで目が行くようになったので、“石橋蓮司さんはやっぱりカッコいいな”とか“あの結末は優しぎるな”とか、頭の中でツッコミを入れながら観ることができてよかったんですよね。でも、3回目は大号泣しました(笑)。オチを知っているからこそ、そこに向かうのが切なくて。エンドロールで流れるGReeeeNさんの主題歌『味方』が、最後で涙腺を大爆発させてくれたのも、すごくよかったです」。