映画業界のジェンダーバランスの不均衡、数値化して発表「女性がキャリアを継続しづらい状況がある」
美術、映画、文芸、音楽、写真、教育機関など「表現の現場」におけるハラスメントをなくす活動を続けている「表現の現場調査団」。8月24日に厚生労働省で記者会見を行い、1年以上にわたり調査を行ってきた「ジェンダーバランス白書2022」の結果を発表。賞の審査員、受賞者、指導的地位にいる教員などのジェンダーバランスにおける現状と今後への課題を語った。
2020年11月に表現に携わる有志14名によって設立された「表現の現場調査団」は、表現の現場における様々な不平等を解消し、ハラスメントのない、真に自由な表現の場を作ることを目指して活動している。この日は、アーティストのホンマエリ、彫刻家で評論家の小田原のどか、アクタートレーナーの森本ひかる、映画監督の深田晃司、アートトランスレーターの田村かのこ、社会調査支援機構チキラボ代表の荻上チキが会見に出席した。
映画分野のジェンダーバランスについて調査結果を報告したのは、深田晃司監督。日本アカデミー賞やキネマ旬報ベストテン、東京国際映画祭など19の賞や映画祭の「審査員」人数合計の比率は、74.3パーセントが男性、25.5パーセントが女性。「受賞者」人数合計の比率は、82.4パーセントが男性、17.6パーセントが女性という結果となった。
「受賞者」のジェンダーバランスに関しては、日本アカデミー賞の受賞者は、94.5パーセントが男性だったといい、「女性の割合は、極めて少ない結果となりました」と明かした深田監督。さらに日刊スポーツ映画大賞の受賞者の比率は、男性が100パーセントだったそうで、同じように毎日映画コンクールやブルーリボン賞など商業映画を対象とした映画賞の受賞者は、明らかに女性の割合が少なかったという。
一方で映画監督への登竜門として知られる、ぴあフィルムフェスティバルの受賞者は、男性が72.0パーセント、女性が28.0パーセント。TAMA NEW WAVEの受賞者は、男性が65.0パーセント、女性が35.0パーセントと、商業映画を対象とした各賞よりは比較的に女性が多い結果となった。
その結果からは、「新人や学生映画、自主映画や低予算という分野には女性がたくさんいながら、商業映画になると、女性が減っていってしまう」という実状が見えてくる。表現をしたいと思い、映画業界の入り口に立つ女性が多くいながらも、次第にその比率が減ってしまうのはなぜなのか。ジェンダーバランスの不均衡が起きてしまう原因について、深田監督は「映画業界においては、労働環境の悪さも影響していると思う」と分析。「いまの映画業界の労働環境の悪さ。伝統的に長時間労働であったり、女性の働きづらさがある。出産すると女性がキャリアを失っていく実状。女性がキャリアを継続しづらい状況がある」と語った。
さらに「映画の表現にはお金がかかる」と持論を述べ、「商業映画を1本つくろうと思ったら、数千万から数億円かかる。そういった大きな予算を任される監督に、女性が非常に少ないという状況がある。もともと映画業界は男性社会であったというところからスタートして、それがずっと続いてきた。なぜ続いてきてしまったかというと、ある実績を上げると、その実績を上げたところに資金が集まりやすくなる。これはどの分野でもありえること。それが当たり前のように続いてきてしまうと、ますます男性社会が継続していく。特に映画業界は資金が多くかかるので、経済的リスクが高い。プロデューサーがリスクを抑える方法を探った時に、監督もキャリアがある人、実績がある人のほうが安心できると考える」と一部の成果を上げたものに、さらに資金や仕事が集まりやすい状況があると説明した。
表現の現場におけるジェンダーバランスの不均衡について、荻上は「気のせいでしょう?実力の問題でしょう?自由競争の結果でしょう?と言われてきた」と語り、アンフェアな状態があることが数値化される意味があると力を込め、今回のデータをジェンダーバランスを整えるための「有意義な議論につなげてほしい」と願った。
田村も「データだけでなにかが変わるものではない。変化を起こす行動の、後押しとなることを願っています。特に指導的立場にある皆さん、組織を変えられる役職に就いている皆さん、権力をお持ちの皆さん。このデータを熟読して、新たな組織や環境を、よりよい表現が生まれるような公平で多様性が確保された場に変えていくことに活用してほしい。男性が悪いのだというためのデータではありません。男性の実力や能力を疑うためのものではない」と考えを語り、深田監督も「データを公共の財産として使ってもらえたら」と希望を抱いていた。
取材・文/成田 おり枝