イアン・ハートが語る、英国ドラマ「レスポンダー」にあふれた“リヴァプール愛”「この雰囲気なしには作れない」
ザ・ビートルズが誕生したイギリスの街リヴァプールを舞台に、警察への通報に初期対応する“レスポンダー”の任務に就く夜勤巡査のスリリングな5日間を描いたドラマシリーズ「レスポンダー 夜に堕ちた警官」(スターチャンネルEXで配信中)。マーティン・フリーマン演じる主人公のクリスを苦悩させる本作の“影の主人公”麻薬の売人カールを演じるのは、リヴァプール出身の名優イアン・ハートだ。
実際にリヴァプールで“レスポンダー”をしていたトニー・シューマッハが自らの経験をもとに脚本を執筆した本作。ある晩、夜勤でパトロール中の巡査クリスの元に、旧知の友人である麻薬の売人カールから、ある人物を探してほしいとの連絡が入る。唯一の親しい友人が麻薬の売人という秘密を抱え、年老いた母親のケアやハードな夜勤によって精神的なストレスを抱えていたクリス。そんな彼のパトロールに、新人警官のレイチェルが同行することになる。
イングランドの北西部に位置するリヴァプールは、18世紀ごろから貿易港として栄えた海洋都市であり“労働者の街”として知られている。ザ・ビートルズやエルヴィス・コステロの出身地でもあり、多くのミュージシャンにとってゆかりの地として世界的な知名度を誇り、また数多くの映画人も輩出。名作『チキ・チキ・バン・バン』(68)を手掛けたケン・ヒューズ監督から『最後の決闘裁判』(21)で大きな注目を集めたジョディ・カマーまで、英国のみならずハリウッドでも存在感を発揮し続けている。
ほかにも『ボイリング・ポイント/沸騰』(公開中)で主演を務めたスティーヴン・グレアムや、テレビ映画版『ドクター・フー』(96)で8代目ドクターを演じたポール・マッギャン、「原潜ヴィジル 水面下の陰謀」のショーン・エヴァンス。さらには「セックス・アンド・ザ・シティ」のサマンサ役で知られるキム・キャラトルもリヴァプール出身。そんな個性派ぞろいのリヴァプール出身俳優のなかでもひときわの活躍を見せているのがハートだ。
『ハリー・ポッターと賢者の石』(01)のクィレル先生役を演じた俳優だといえば、英国俳優に詳しくない人でも馴染み深いだろう。1980年代からテレビ俳優として活躍してきたハートは、スクリーンデビュー作の『僕たちの時間』(91)と『バック・ビート』(94)で2作続けて“ジョン・レノン”役を演じたほどの、まさにリヴァプールに愛された俳優。そんなハートが本作で演じるのは、リヴァプールの街でしがない麻薬の売人として生きる男カール。物語のキーパーソンとして、主人公クリスの苦悩にさらなる追い討ちをかけるようにある難題を押し付ける。
「本作は問題を抱えた人々やそれらを乗り越えようとする人々。精神的、肉体的な問題を抱えている人々が混ざり合う姿を描いたドラマです。この物語を通じて、リアルな人間の姿を見ることができるでしょう」と説明するハートは、本作への出演を決めた理由について「ページをめくる手が止まらなくなるほどすばらしい脚本だったからです」と明かす。「単なる警官のドラマでもなければ、善人と悪人を色分けするようなストーリーでもない。自分の人生をただ生き抜いていこうとする人々の姿が描かれているのです」と、シューマッハの書いた脚本に賛辞を送る。
そして、自身の演じた役柄については「周りに小さなころからの知り合いがいて、それぞれの人生を歩んでいるといった、世界中のどこにでもあるようなありふれた環境のなかで生きている」と語り、クリスとカールの関係性に言及していく。「一人は警官になり、もう一人は明らかに違う。だからといって二人の友情が終わるわけではない。奇妙にも二人は腐れ縁の友人で、それぞれの職業で相手を決めつけるようなことはしない間柄なのです。相反する立場にあっても友人関係を続けられるというのは、とても信憑性があるものです」と、本作が紡ぐリアルな人間描写に太鼓判を捺した。
本作では実際にリヴァプールの街で撮影が行われ、リヴァプール英語の“スカウス”がセリフにも活用されている。「リヴァプールはおもしろい街。リヴァプールならではの趣がありますし、ほかの場所を舞台にすることもできると思いますが、この独特な雰囲気なしに同じものは作ることはできないでしょう」と、ハートは故郷の町に想いを馳せながらアピールする。「海外の視聴者はリヴァプールについて先入観がないと思います。それだけに、より一層このストーリーをオープンに受けいれてくれるでしょう」と期待感をあらわに。
ハート以外にも多くの地元出身俳優が出演し、リヴァプール出身のロックバンドTramp Attackの「Oh! When The Sun Goes Down」で幕を開ける本作は、まさにリヴァプールへの愛にあふれた一本。活き活きとした一面から憂いを帯びた雰囲気まで、リアルに描写されたリヴァプールの街の風景に注目しながら、本作を味わってもらいたい。
構成・文/久保田 和馬