綾野剛、ストイックの理由とは?村上虹郎が“頼りになる男”から受けた刺激
とことんストイックに役を突き詰める俳優・綾野剛。『武曲 MUKOKU』(6月3日公開)では、人生のどん底に落ちた剣の達人役にトライ。筋トレと剣道によって肉体改造に励んだほか、ボロボロになった男の殺気、悲しみをも体現した。一体、なぜ綾野は作品のためにそこまで身を削ることができるのか。また、対峙する役どころを演じた村上虹郎は、綾野からどんな刺激を受け取ったのか?二人を直撃した。
藤沢周の同名小説を熊切和嘉監督が映画化した本作。剣道五段の腕前を持ちながら、ある出来事がきっかけで自堕落な生活を送る研吾(綾野)と、ラップ好きの高校生・融(村上)との運命の出会いと対決を描く。
猛特訓を経て出来上がったのは、引き締まった肉体と剣豪の存在感。本作の星野秀樹プロデューサーも「彼のストイックな役への取り組み方は、撮影に関わる全ての人間の意識を変えるほどのパワーがある」と綾野の姿勢に驚くほど。「なぜそこまでストイックになれるのか?」とストレートに疑問をぶつけてみると、綾野は「ストイックって、自分で決めることじゃないですから」とふわりと微笑んだ。
「単純に不安なんです。その不安の精神安定剤になるのは、努力しかありません。今回だったらひたすら剣道をやること。“肉体が再生している”という表現をしなければいけないシーンもあったので、ひたすらトレーニングをすること。肉体的、技術的にも変わってくると、それが精神安定剤になるんです。もっと作品をいいものにしたいというのは、役者のサガですから」。
そう、彼はいつも「天才ではないから圧倒的な努力が必要」と語る。「それが周りからはストイックという評価をいただけているのかもしれません。ありがたいことですが、僕としては『それしかないですから』という思いです」。
村上演じる融は、今どきの高校生。しかし実は恐るべき剣の才能の持ち主で、運命に導かれるように研吾と決闘を果たすこととなる。綾野の役作りを目の当たりにした村上は「ボクシング映画や戦争映画で体を作り込むというのは、わかる気がするんです。でも今回の役でここまでの役作りをされた綾野さんは、本当にすごいと思った」と尊敬の思いを明かしつつ、「僕もこういう役が来たら、やるのかな。心の準備はしておこう」とにっこり。
綾野は「絶対、虹郎はハマると思う。楽しむんじゃないかな」と村上の役者魂を信頼している様子。続けて「今回の撮影の後に映画『亜人』もあったので、並行して体作りをしていたんです。ドラマ『フランケンシュタインの恋』の1話でもどうしても身体を作らなければならないシーンがあって。あれは1か月半くらい前から体作りをして。そうやって“的”がなければやらないです」と告白。「もし虹郎が体を作らなければいけない時がきたら、僕は自分の経験や環境を全力で教えます」と村上をサポートする意気込みだ。
村上はそんな綾野について、「こんなに頼りになる方がいるんだと思った」と素直な言葉をもらす。剣を戦わせる激しいアクションシーンもあるが、「突き指をしたら、すぐに綾野さんが『アイシング!』と誰よりも早く言ってくれたんです」と撮影エピソードを吐露。「撮影に入る前から面識はあったのですが、この作品で『本当の綾野さんがどういう人なのか』を知ることができてよかった。研吾と融として生まれたものがあってすごくうれしかったし、それがしっかりと映画に映し出されていると肌で感じています」と真っ向から対峙する役で共演できた喜びを語っていた。
台風の中で繰り広げられる死闘シーンは大きな見どころだが、雨、風だけでなく、墨を降らせることによって、迫力のシーンが完成した。「あの後、墨がぜんぜん落ちなかった」(綾野)、「二人ともエイリアンみたいになってました」(村上)、「二人で風呂に入って、ずっと落としてたね」(綾野)と笑顔を見せ合うなど、壮絶な現場を乗り越えてしっかりと絆を育んだ二人。
綾野は「僕が現場でうれしいと思うのは、熊切監督が喜んだ顔をしていたり、『もっともっと!』と要求をしてくれたり、虹郎がいい顔で芝居をしていたりすることなんです」と胸の内を明かす。「僕にとっては、現場で求められることに応えられないことは、死にたくなる。現場が喜んでくれるために、自分をその場所まで持っていかないといけないと思っています」。「より高みを目指そう」という思いが響き合う。目の前に“本気”の現場があることが、綾野のストイックの秘密だ。【取材・文/成田おり枝】